【秘蔵映像初公開】ビートルズ日本公演の警備に、1万1000人の警察官が動員された本当の理由

  • ブックマーク

Advertisement

 日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。昨年9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、ビートルズ来日公演の警備について聞いた。

 ***

 1966年6月29日、ビートルズが来日した。先日、安倍晋三元首相の国葬が行われた日本武道館で30日夜、7月1日の昼夜、7月2日の昼夜の5公演が行われた。9月25日、当時、警視庁が警備の様子を撮影した幻の映像が公開されたのである。

 NPO法人「情報公開市民センター」(名古屋市)が2015年、「歴史的映像」として警視庁に情報公開を請求。今年7月、DVDの映像が提供されていたという。

最終公演も収録

「警視庁時代、私はビートルズのこの映像を2回ほど見たことがあります」

 と語るのは、勝丸氏。

「私は巡査と巡査長の時、2回機動隊に配属されたのですが、その研修で、色々な教材を使いました。安保闘争で、国会前でデモ隊と機動隊がぶつかるシーン、成田空港の三里塚闘争で、丸太を持った過激派が機動隊に突っ込むシーンを見ました。それらと一緒に、ビートルズ公演の映像もありました。ビートルズの警備が国賓級だったため、警視庁の警備関係者はほとんど見ているくらい有名な映像です」

 「ザ ビートルズ来日に伴う警備 警備課機動隊」と題する16ミリフィルムで撮影された映像は35分40秒のモノクロで、音声はない。過激派が暴れる映像と一緒にビートルズの映像が研修に使用されているとは少々意外である。 

 これまで公になっているビートルズ来日公演の映像は、テレビで収録された30日夜と1日昼の2公演だけである。今回公開された映像には、2日夜の最終公演も収録されている。演奏を終えたメンバーが舞台を降りたり、ハンカチを振るファンにメンバーが手を振って応えるシーンがとらえられていて、最終公演が盛り上がったことがわかる貴重な映像だという。

「研修で見て驚いたのは、警備の多さです。映像を見るとわかりますが、会場内に制服警官がびっしり詰めているのです。普通のコンサートでは考えられない物々しい雰囲気でしたね」

 実際、朝日新聞(1966年7月1日付)は、こう報じている。

《ザ・ビートルズの日本初公演は、二千人近い警官隊の人ガキに囲まれて三十日夜六時半から東京・九段の日本武道館で行われた。娯楽の興行が、かつてこれほどの大がかりな警備で固められた例はないだろう。
 開演二時間前から会場周辺は、およそ音楽会には不似合いな警備車、投光車、救急車、パトカー、ジープで埋まった。「良識をもって静かに」「規則に違反すると逮捕します」》

 朝日新聞は、宿舎、公演会場、羽田空港などにのべ約1万1000人の制服・私服警官を動員したと報じた。ちなみに安倍元首相の国葬では、約2万人の警察官が動員された。

次ページ:「おまわりさんはいいわね」

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。