健康長寿のカギは「選択」にあり 「生活習慣改善法」と医療の新常識「SDM」を専門家が解説

ドクター新潮 ライフ

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自身の生命を医師に委ねてしまう

 例えば、私が専門としている循環器領域が特にそうなのですが、医療の進歩とともに治療法が非常に複雑化しています。治療法A、B、C、D……。実のところ、どの治療が最適なのかは一概には言いにくい。医師側が「Aでいきましょう」と患者さんに説明した場合でも、理由はそのドクターや病院がAに長けているからということも少なくないのです。

 私が多く治療を行っている冠動脈疾患に関して言うと、バイパス手術、カテーテル治療、薬と、主に三つの治療法があります。興味深いのは、いずれの治療法も、生命予後(その治療によって生命をどれだけ維持できるかどうかの予測)はあまり変わらないことが近年分かってきていることです。

 心臓の血管が狭くなっている写真を見せられると、多くの患者さんは「これはヤバい、詰まったら死ぬ!」と焦り、バイパス手術やカテーテル治療を選択しがちです。しかし最近は、薬による治療でも、必ずしも寿命が短くなるわけではないとのエビデンスが出てきています。

 ところが、患者さんはそうした説明を受けることなく、医師から「来週、カテーテルをやりましょう」とレールを敷かれてしまうケースが少なくない。カテーテル治療が得意な医師からそう言われて、「他の治療法も考えてみたいのですが……」と聞き返せる患者さんが、果たしてどれだけいるでしょうか。その場合、患者さんは自身の健康・生命を実質的には自身で選択できていないことになります。冠動脈疾患の例で説明すると、SDMは少なくとも薬による治療エビデンスを医師と患者さんが「シェア」した上で選択すべきであるという考え方です。

「医師にとっての最良の選択」

 また高齢者が多く罹患する弁膜症で言うと、医師側はどうしても生命予後を改善させるという目標にまっしぐらに突き進み、手術を勧めることもあるかもしれません。しかし、患者さんの中には潔く最期を迎えたいとの価値観を持っている人もいるかもしれない。100点は狙えなくとも、体にメスを入れないカテーテル治療という選択肢も患者さんの状態によっては存在します。その場合、SDMを実施していないと、医師側の方針が優先され、「医師にとっては最良の選択」であっても、患者さんにとっては「不本意な選択」になってしまう可能性があるわけです。

「よく分からないから先生が決めてよ」。もちろん、これも選択肢のひとつとして尊重されるべきです。しかし、可能な限り自分で自身の健康・生命について決めたい患者さんがいるのも事実です。

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