エミー賞6冠「イカゲーム」は結局何がすごかったのか

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 韓国ドラマ「イカゲーム」がアメリカのテレビ番組に贈られる「エミー賞」で、監督賞、主演男優賞を含む6冠を獲得した。賞の70年の歴史の中で、非英語作品がここまで躍進するのは初めてのことだ。昨年はゴールデングローブ賞を獲るなど、同作品が世界的な評価を集め続けるのには、いくつかの理由がある。【ライター・渥美志保】

膨大な数の作品の中で選ばれた

 エミー賞で非英語作品が評価された背景には、Netflixを中心としたストリーミングサービスによって、世界中でほぼリアルタイムに作品を視聴できるようになったことがある。しかしそれは同時に、審査対象の作品が一挙に膨大な数に増えたことを意味する。これはエミー賞に限ったことではないが、おそらく審査する人々の中で、視聴可能な作品をすべて見つくしている者は、ほぼいないに違いない。

 そんな環境の中で、なぜ「イカゲーム」だけが突出することができたのか。ひとつには「イカゲーム」の特異なビジュアルづくりがあるように思う。

 物語は、多額の借金をかかえた人間たちが謎の施設に集められ、賞金獲得を目指していくつかのゲーム(全てが子ども時代の遊びにちなんだもの)に参加するという内容だ。1億ウォン×人数分の賞金(合計約500億ウォン)を総取りできるのは、最後に勝ち残った1人で、それ以外はもれなく殺される。いわゆる「胸糞系」ともいえる展開なのだが、ビジュアルづくりはそうした残酷な世界をまったくもってなぞらない。

特徴的なビジュアル

 ゲームの参加者が着せられているのは、番号が書かれたゼッケン付きの「緑色のジャージ」。

 一方で、参加者を仕切る現場の人間たちはフードをすっぽりかぶった「ショッキングピンクのつなぎ」姿である。彼らはフェンシング競技でかぶるような黒いマスクで顔全体を覆っており、そこには階級を示す「〇△□」の図形が描かれている。

 参加者が集められた迷路のような施設内は、どこもかしこもパステルカラーで妙にカラフルである。彼らが寝起きするのはベッドのみが並ぶ大空間で、その頭上に「スーパーマリオ」的な電子音とともに現れるのは、とぼけた表情の巨大な豚の透明な貯金箱。生活空間には優雅なクラシック音楽がゆったりと流れ、ゲーム失敗し殺される場面のBGMは、洒落たジャズである。そして人が死ぬたびに上空の豚の貯金箱にバサバサっと1億ウォンの札束が投げ込まれ、生き残った者の賞金が増えていくのだ。

 こうした世界の象徴的存在が、エミー賞授賞式にも登場した「ヨンヒ人形」だ。昭和初期の小学生女児を思わせるその人形は、第1話で最初に行われるゲーム「だるまさんがころんだ」(韓国では「ムクゲの花が咲きました」)のオニで、不気味な無表情で振り返っては、動いて失格となった参加者を片っ端から射殺する。

 そもそも「なんだそれ」と言いたくなる「イカゲーム」というタイトルの「イカ」は、文字通り刺身で食べる、あの「イカ」である。「だるまさん」同様、韓国の昔遊びの名前で、当初はNetflix側に「意味不明」と反対されたらしい。その判断は当然すぎるほど当然なのだが、結果論でいえばこの言葉の持つあまりに「なんだそれ」な印象が、「イカゲーム」が他のドラマの中に埋もれることを防いだともいえる。

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