エリザベス女王が乗った「新幹線」が遅延危機… 「皇室・王室」が抱く鉄道へのご関心

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昭和天皇の新幹線ご乗車

 女王が新幹線に初乗車する10年前、東海道新幹線が開業した翌年の1965年に昭和天皇が新幹線に初乗車した。

 天皇・皇后両陛下は前年の新幹線開業式典に出席しているが、乗車はしていない。記念すべき新幹線初乗車は、鳥取県で開催される植樹祭へ向かうときだった。当時は山陽新幹線が未開通のため、新大阪駅までの約4時間を車中で過ごしている。

 このとき、昭和天皇は小田原駅付近で侍従を通じて「運転席を見学したい」と願い出ている。同乗していた国鉄の加藤一郎新幹線支社長は、それを聞いて大慌てになった。本来、安全運転の観点から列車の運転室は関係者以外の立ち入りを禁じているからだ。

 当然と言えば当然だが、相手はそこらへんの鉄道マニアではない。畏れ多くも昭和天皇である。国鉄は断るわけにもいかず、昭和天皇は浜名湖から蒲郡を走る約15分に運転室を見学した。

 とはいえ、昭和天皇は興味本位で運転室の見学を願い出たわけではない。見学時には、「CTCではリモートコントロールをしていて、運転士は座っているだけなのか?」といった専門的な質問を運転士にしている。

 CTCとは列車集中制御装置と呼ばれる運転システムのことで、こうした鉄道の専門用語を交えた質問をしていることからも昭和天皇が以前から鉄道に高い関心を示していたことは間違いない。

 実際、新幹線の初乗車から約半年後に天皇皇后両陛下は多摩御陵を参拝した帰路に東京都国分寺市に所在する鉄道技術研究所(現・鉄道総合技術研究所)に立ち寄っている。研究所では、リニアモーターカーの模型実験などを視察した。

 リニアモーターカーと命名されるのは1970年なので、視察時にはリニアモーターカーという呼称は存在しない。説明役として随行したのは、国鉄総裁の石田礼助、技師長の藤井松太郎(後に国鉄総裁)、研究所所長の松平精の3人だったが、どういった説明をしたのかは詳細にわかっていない。

 ちなみに、先述した新幹線の運転室見学も“おしのび”だった。そのため、当時は新聞・テレビで公表されていない。後年、歌会始で詠まれた歌によって世間に知られることになった。

 立場上、皇室も王室も私的なことを無闇やたらに口にしたり、自分の趣味・嗜好について得意げに語ったりすることはない。それは、時に無用な混乱を生み、国民を不安に落とし入れてしまうこともあるからだ。

 しかし、人間である以上、どうしても「好き」「嫌い」は生じてしまう。普段、そうした心情が見える機会は少ないが、それでも何気ないときに素顔が見えることはある。

 鉄道、特に高速で走る列車は身分の違いを超えて、人の心をワクワクさせる力を秘めている。新幹線は、それを具現化したといえるだろう。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部

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