金足農「いじめ」、酒田南「喫煙」で選抜絶望…高校野球の不祥事を巡る“根深い問題点”

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処分に対する疑問の声

 これに加えて、一度張られたレッテルをはがすことは、さらに難しい。これは不祥事ではないが、今年の夏の甲子園で準優勝を果たした下関国際も地元での評判は良いものではなく、そのことに苦しんだ時期が長かったという話も聞く。高校野球の指導者は、高校生の部活動以上の厳しさを求められるという部分は確かにありそうだ。

 もう一つ気になる点が、不祥事があった時の“処分”である。部員の多くがかかわっている組織的な問題であれば、チーム全体への処分というのも致し方ないかもしれない。だが、ごく一部の部員が起こした不祥事によって、他の部員まで、出場機会を奪われるのは、果たして“適切な教育”と言えるのだろうか。

 高校野球の指導者に取材すると、高野連の処分に対して疑問の声が相次いでいる。

「部内で何か起こればもちろん指導者の責任なのですが、多くの部員を抱えているチームは難しい部分はありますよね。選手の数を絞りたくても、私立では学校経営の問題もあるので、絞れないというチームもあります。その中でたった1人が何かやってもチームが出場停止となるのはなかなか厳しいというのが正直なところですね。高野連の役員の方が1人や2人の問題で、たばこ程度なら報告してこないでほしいということを話していたのも聞いたことがあります。ただ、そうなると『正直に言った者が馬鹿を見る』ということにもなりかねませんよね……。指導者の中にはそういうことも分かっていて、何かあっても報告するタイミングを見ている人がいると思います。厳しい処分が抑止力となっているという部分もありますが、逆効果と言えることもあるのではないですかね」(私立高校の野球部指導者)

弁当の取り合いを高野連に報告

 以前、筆者は、21世紀枠の候補に選ばれた学校の指導者に、選ばれた後に何かあったら大変だからということで、部員同士がお弁当の取り合いで揉めたことを、高野連に報告したら、笑われたという話を聞いたことがある。これは笑い話で済んでいるが、指導者の苦労が垣間見えるエピソードだ。

 オフの期間には「指導者講習会」という名目であらゆる集まりが行われているが、そこで話されるテーマは、ほとんどがどうやってチームを強くしたかということであり、不祥事に対する取り組みやそれを改善した事例などは聞いたことがない。“教育のための高校野球”であれば、本来そちらにももっと目を向けて、高校球界全体で取り組んでいくことが必要ではないだろうか。

 真面目に取り組んでいる選手、指導者が馬鹿を見るような事態が今後起こらないためにも、高校野球が長く続いていくためにも、不祥事を巡る問題に目を背けずに、対策を考えていく必要があるだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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