鉄の女2.0「トラス英国新首相」を待ち受ける難題 このままでは大規模な暴動が起きる

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英国が分裂の危機に

 首相となったトラス氏にとって最初の難題は家計の負担をいかに減らすかだ。トラス氏は選挙期間中、減税を直ちに実行するとともに、今年4月に実施された国民保険料の引き上げや今後予定される法人税の引き上げを撤回するなどの考えを示しているが、これだけでは「焼け石に水」と言わざるを得ない。

「10月から電気・ガス料金が8割値上げ」と報じられると、各地で市民がガソリンスタンドを破壊する事案が発生している。政府は生活費の高騰が引き金となって大規模な暴動が発生することへ備えているが、物価上昇を封じ込めるための対策を講じない限り、英国の治安は悪化するばかりだろう。

 英国では来年10月、スコットランドで独立の是非を問う2度目の住民投票が実施されることになっている。トラス氏は反対の立場だが、インフレを抑制できなければ「独立」派が勝利を収める可能性が高く、英国が分裂の危機に直面してしまうことになる。

 英国の危機を回避するためには電気・ガス料金のこれ以上の値上げを止めなければならないが、そのためには財政出動が不可欠だ。英国政府研究所の研究者らは8月23日「今年と来年の冬の2度にわたって電気・ガス料金を凍結するために必要な経費は1000億ポンド(約16兆円)に上る」との試算を発表した。新型コロナのパンデミックの際に政府が国民に支給した給与総額(700億ポンド)を上回る規模だが、英国の深刻な分断を回避するための必要経費なのかもしれない。

 いずれにせよ、トラス氏が2代目鉄の女を襲名するためにはサッチャー氏と同様、前代未聞の政策を断行しなければならないのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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