実家の所有者が93人になることも! 家族関係を破壊する「共有不動産」の知られざるリスク

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「あの土地は売らないからね!」

「具体的にはこんな案件がありました。両親と長男、長女の4人家族で、子ども二人は結婚して独立しており、その父親が亡くなってしまった。実家と土地の資産価値は4000万円ほどで、法定相続分は妻が2分の1、長男と長女が4分の1ずつになります。高齢の母親は足を悪くして2階への階段の上り下りにも苦労していた。しかも、1人で暮らすには今の実家は広すぎる。そこで、実家を売却して、その売却益で老人ホームに入居することを希望していたんです」

 ところが、これに娘が大反対したという。

「娘さんは不動産の売却どころか、相続登記をすること自体に異議を唱え始めました。このまま母親も亡くなれば自分の法定相続分が2分の1になるはずだ、と。わざわざ遠方から母親を訪ねて“あの土地は売らないからね!”と詰め寄ることも。結局、母親と息子さんから弊社に相談が持ち掛けられて、弊社が不動産を買い取ることに。その後、娘さんとも交渉を行い、最終的に全ての不動産を弊社が購入しています」

 親子の情よりも、自分の取り分を優先する姿勢には驚く他ないが、こうした事例は決して珍しいことではないそうだ。

「多くの場合、私たちは一方の当事者から相談を受けて不動産を購入し、その後、別の当事者との交渉に当たります。とはいえ、“1円でも構わないから私の持ち分を買ってほしい”と依頼されるケースは少なくありません。もともと兄弟関係が冷え込んでいると、いざ相続という段階になっても、“あいつとは顔も合わせたくない。自分が損をしてもいいから、あいつにだけは得をさせないでほしい”と考える人もいるんです」

 それまで表面化しなかった親族間のわだかまりが、一気に噴き出してしまうのだ。

次世代に問題を先送りしない

「そこまで相続が大揉めになっていなくても、無難に相続を終わらせるために共有不動産を選ぶ家庭もあります。しかし、これは問題の先送りに過ぎません。きょうだいの誰かが資金繰りに困って不動産を売って金に換えようとしても、他の相続人が反対すれば売却はできずトラブルに繋がります。また、共有名義だった不動産をさらに自分の子どもや孫に相続すれば、当然ながらネズミ算式に所有権者が増えてしまう。姫路市のある事例では、もともと1人の男性が所有していた不動産が、五世代にわたって引き継がれ、結果的に93人の共有状態になっていることが発覚しました。こうなってしまうと、もはや泥沼で収拾がつきません」

 こうした悲劇を避けるためにはどうすべきなのか。

「重要なのは、不動産の共有状態というリスクをなるべく遠ざけることに尽きます。まずは親の側が早めに遺言書を作って道筋を示しておく。また、相続する側も、親が存命中から話し合いをして、子どもや孫の世代に問題を持ち越さない。家族関係を良好の保つことこそが、リスクを回避する最大の手段だと考えています」

デイリー新潮編集部

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