「稲盛和夫」死去に中国が泣いた 「アリババ」ジャック・マーも心酔する「稲盛人気」の秘密

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 8月24日、京セラの創業者で「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫氏(享年90)が老衰により死去した。日本でも各界から哀悼の意が捧げられるなか、より深い悲しみに暮れているのがお隣の中国だという。なぜ稲盛氏は中国で「日本以上」と評されるほど崇敬の念を集めていたのか――。

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 稲盛氏の訃報が流れた30日、中国版ツイッター「微博」に投稿された“#稲盛和夫去世(死去)”とのハッシュタグ付きメッセージの閲覧回数は半日たらずで3.8億回を超えた。

 中国事情に詳しいシグマ・キャピタル代表取締役兼チーフエコノミストの田代秀敏氏が言う。

「いまも中国のSNS上には稲盛氏の死を惜しむ声が溢れています。中国の民営企業経営者にとって、稲盛氏は文字通り“神”のごとき存在。電子商取引大手『アリババ集団』創業者の馬雲(ジャック・マー)氏や通信機器大手『華為技術(ファーウェイ)』創業者の任正非氏、大手電機メーカー『ハイアール』創業者の張瑞敏氏、エアコントップメーカー『格力電器(グリー)』の女性CEO董明珠など、中国を代表する企業トップの多くが深く信奉しています。稲盛氏が中国で講演すると、何万人という企業家が詰めかけスタンディングオベーションで迎えられる光景が見られたもの。ジャック・マー氏が稲盛氏と対面した時、感激のあまり泣きながら握手を求めた逸話は有名です」(田代氏)

 起業家のなかには心酔のあまり、“稲盛思想の伝道師”となる人物まで登場。中国のユニコーン企業(評価額が10億ドルを超える設立10年以内のベンチャー)の代表格である広告大手『新潮』創業者の張継学氏は、稲盛氏の言葉を中国語に訳した「稲盛哲学」と題する投稿をほぼ毎日のようにSNSに上げている。

著作は累計2000万部の大ベストセラー

 稲盛氏の著作は中国で60冊近く翻訳出版されており、累計で実に2000万部の売上げを記録。なかでも代表作とされる『活法』(日本語タイトルは『生き方 人間として一番大切なこと』)は580万部を超える大ベストセラーとなっている。

 同書の中国版を出版した東方出版社の元編集長・許剣秋氏がこう話す。

「中国では少なくとも5万社の企業経営者たちが稲盛氏の経営哲学を学ぶ『盛和塾』などを通じ、それぞれの企業で“稲盛イズム”を実践しています。稲盛氏の著作は中国の出版史上で“奇跡”と称されるほどの空前の記録を更新した。彼の思想は中国の大地に根付き、薫陶を受けた企業経営者らが花を咲かせる形で、いま豊かな実りの時期に入ったともいえます」

 稲盛氏がここまで愛された理由を、田代氏がこう話す。

「稲盛氏の説く経営哲学は、儒教など中国の伝統的価値観に通じるところが多々あり、彼らの心にダイレクトに響くのです。利他の精神や謙虚さを説く心などは、中国人が描くリーダーのあるべき姿を表わしている。さらに稲盛氏の言葉は、世界企業番付トップ500にランクインする会社を一代で2つ(京セラとKDDI)興した実績に裏打ちされたもので、重みと深みが違う。2019年に私が北京のビジネススクールの経営者向けコースで講義した際、受講生の大半が稲盛氏を深くリスペクトし、著作の中国語版を“聖書”のように革のブックケースに納めて携帯している人もいました」

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