「稲盛和夫」死去に中国が泣いた 「アリババ」ジャック・マーも心酔する「稲盛人気」の秘密

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アリババもファーウェイも「アメーバ経営」を採用

 実際、前出の広告大手『新潮』に勤める張曦勻さんはこう話す。

「稲盛氏の経営哲学である『敬天愛人』に深く共鳴しています。敬天とは“自然の理”や“人間の正道”を表わし、“天道に従って人とともに善をなす”ことを指す。愛人とは、自分の私欲を捨て、人を思いやり、利他の心を持つこと。まさに“君子の徳”を説いていて、稲盛氏の智恵や思想は多くの中国人に影響を与えています。それだけでなく、彼のビジネスモデルは中国の企業に脈々と継承されてもいる」

 稲盛氏が編み出した経営管理手法で有名なのが「アメーバ経営」と呼ばれるものだ。これは会社経営を一部のトップに委ねることなく、組織を独立採算で運営する小集団(アメーバ)に分け、全社員が経営に関わり得る「共同経営」的な手法をいう。

「稲盛氏の“アメーバ経営”はファーウェイやアリババを筆頭に、中国の民営企業の多くで採用されています。事業部ごとに裁量を与え、成果を競うやり方は“独立独歩の精神”に富む中国人の気質に合っている。経営の効率性や実力主義を稲盛氏の経営スタイルから取り入れ、かつ徹底したことでファーウェイやアリババなどは世界的企業へと成長したといっても過言ではありません」(田代氏)

「成功に出自は関係ない」

 稲盛氏の出自や経営者としての歩みも人々を惹きつける大きな要素になっているという。

 稲盛氏は九州・鹿児島市の出身で、鹿児島大学卒業後、京都の碍子メーカーを経て27歳の時に京セラを創業。その後も成功に安住することなく、電気通信事業の自由化という荒波に飛び込み、84年に第二電電を立ち上げ、00年にKDDIを設立。さらに78歳という高齢にもかかわらず、政府から請われて経営破綻した日本航空(JAL)会長に就任。再建に尽力し、わずか2年8か月でJALの再上場を果たした。

「中国の人々は稲盛氏の軌跡を目にして、“人は出自に関係なく、努力によって無限の可能性が拓ける”ことを知った。偉大な経営者でありながら、経団連や自民党などエスタブリッシュメントの中枢とは距離を置き続けた姿勢も“反骨の人”として尊敬を集めています。その一方で、稲盛氏は中国内陸部の貧困家庭の子どもたちが学校へ行くための奨学基金を設立するなど、常に公共の利益に貢献することを忘れなかった。稲盛氏の姿勢に倣ってファーウェイなども外国の大学や交響楽団への寄付や社会貢献活動を熱心に行っています」(田代氏)

 日本を飛び越え、中国でも息づく稲盛氏の思想。次に大輪の花が咲く地はどこか。改めて「喪失」の大きさが浮かび上がる。

デイリー新潮編集部

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