不動産バブルがはじけた韓国 通貨売りと連動、複合危機に

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本質は生産年齢人口の減少

――米国の利上げが止まれば、韓国の不動産価格は安定する……。

鈴置:それは甘い見方と思います。バブル崩壊の本質は生産年齢人口の減少による不動産需要の減少にあるからです。マンション価格の年間変動率を示したグラフをご覧ください。

 日本でもそうでしたが、生産年齢人口がピークアウトする少し前にバブルが発生し、その前後にはぜることがある。韓国の生産年齢人口の頂点は2019年で、まさにこの年からマンション価格は下がり始めました。

 ところが2020年に発生した新型コロナに対応するため、韓国のみならず世界中が金融を緩和しました。韓国にもホットマネーが流れ込み、しぼみかけたバブルに息を吹き込んでしまったのです。

 現在、ソウル市内のマンション価格は標準的な広さの85平方メートルの物件で、日本円換算で1億円するのは当たり前になりました。小金持ちはこうした物件を担保に金を借りて、次々とマンションを買い増してきたのです。

 もっとも2021年12月、米FRB(連邦準備理事会)がテーパリング(量的緩和の縮小)に動くと、2022年1月に韓国のマンション価格も下げに転じました。世界の金融が正常化に向かった瞬間、韓国の不動産バブルも化けの皮がはがれたのです。

 本来、起こるべきバブル崩壊と比べ、2年遅れた形となりましたが。その分「山高ければ谷深し」ということになるかもしれません。

――生産年齢人口が減る直前になぜ、バブルが起きるのでしょうか。

鈴置:養われる人に比べ働き手が増えるためカネ余り現象が起きて、投機がはびこるのです。こうした仕組みや、韓国バブルの崩壊に関しては『韓国民主政治の自壊』第4章第3節「ついに縮み始めた韓国経済」で詳述しています。

韓国の「鬼平」は米FRB

――韓国では大騒ぎに?

鈴置:それが、全く騒ぎになっていないのです。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は8月17日、就任100日を記念して記者会見を開きました。冒頭発言で「暴騰した住宅価格とチョンセ価格(賃貸住宅を借りる際に家主に預ける保証金)を安定させました」と誇りました。

 激しい不動産の値上がりに直面した人々は、下がれば思わず「ほっ」としてしまい、「これがバブル崩壊だ」とは思いません。日本でもバブル崩壊が始まったというのに、相次ぐ利上げでその引き金を引いた日銀総裁が「平成の鬼平」と持ち上げられたりしました。韓国の場合、「鬼平」は米FRBですが。

 7、8年ほど前までは「少子高齢化による生産年齢人口の減少により、韓国経済も危機に瀕する」と警鐘を鳴らす韓国人も少数ですがいました。主に、韓国紙の東京特派員として日本のバブル崩壊を目撃した人です。

 1980年代には米国を凌ぐかに見えた日本経済が、突然、ズブズブと沈んでしまった。それを身近で見守った特派員は、平均的な日本人以上に「なぜか」と考え込んだのです。ただ、それから30年たった今、彼らのほとんどが引退してしまいました。

 そんな体験はしないものの、理屈では分かっているエコノミストもいます。でも、韓国人の多くが「日本を超えた」と有頂天になっている時に、実体験なしに「日本と同じ病に罹るぞ」と言い出す勇気は出ないものです。

 韓国の少子化こそが急ピッチで進んでいます。韓国の合計特殊出生率は2017年の1・05から2021年の0・81に急速に落ちました。コロナの影響もあるのでしょうが、2022年第2四半期には何と0・75に。今年1年間も0・7台で終ると予測されています。なお、日本の2021年の合計特殊出生率は1・30です。

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