幸せな老後のための「五つのM」とは 「老年医学」の新常識を米在住医師が明かす

ドクター新潮 健康 長寿

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健康診断と予防接種

 第4のMは「Multicom­plexity(よぼう、多様な疾患)」です。糖尿病、高血圧、心疾患……。これらの多様な疾患にどう対応していくか。例えば、腎臓の機能を回復させようとその治療に集中すると、他方で心臓に負担をかけてしまうなどといったケースもあります。つまり腎臓と心臓、両方の治療で100点を目指すのは難しい。そこであえて、両方とも60点の治療をするという選択肢も場合によっては必要になってくることを理解しておくのが大切でしょう。

 そして、それ以前に複数の持病を抱えないようにする予防が重要になってきます。とりわけ日本における死因は、がん、脳梗塞、心筋梗塞、肺炎が突出して多い。これらに罹患するのを防ぐ意味でも、当たり前のことではありますが、がん検診、生活習慣の見直し、定期的な健康診断が大切です。

 さらに予防接種も重要です。子どもの頃に多くの予防接種を受け、その“貯金”は大人になっても一定程度保たれますが、効果が薄れていきアップデートが必要なものもあります。インフルエンザワクチンや破傷風ワクチンなどは、高齢者になっても定期的な接種が望まれます。

第5のM「いきがい」

 最後に第5のMは「Mat­ters Most to Me(いきがい、優先順位)」。このMはふたつの視点から重要だといえます。

 まず、治療方針を決めるという視点からです。とりわけ高齢者の治療においては「二兎を追う」ことが難しい局面が出てきます。例えば、いますぐに強い抗がん剤を使えば、より長い人生を期待できるものの、副作用も強く、入院治療が望ましいので今までの日常生活を続けることは困難である。一方、弱い抗がん剤を使うと副作用は少なく、これまでと同じような生活を続けられるかもしれないが、その分、残された人生は短くなる可能性がある。

「生きること」を優先するのか、「これまで通り生きること」を選択するのか、正解はありません。いずれにしてもスピーディーな決断が求められます。その時に重要となってくるのが第5のMである、いきがいです。つまり、自分の人生における優先順位を決めておくことです。これができていれば、患者さんが望む治療が受けられ、納得のいく時間を過ごせる可能性が高まるでしょう。

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