【終戦記念日】「僕には畑中少佐の気持ちがよく分かった」 俳優「黒沢年雄」が明かす「日本のいちばん長い日」撮影秘話

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演技は120%出し切った

 とにかく僕は、あの映画で最初から最後まで声を張り上げ続け、軍服の背中に汗が浮き出るほど駆けずり回っていた。そのせいで岡本監督は、出来上がった作品を観た藤本さんに怒られたようです。「黒沢を“第二の三船”にしようと思っていたのにどうしてくれるんだ!」とね。藤本さんに言わせると、俳優は70%で演技をして、残りの30%は観客に想像させるものなんです。

 たとえば、「昭和残侠伝」(65年公開)の高倉健さんは、敵役にやり込められ、義憤に駆られながらラストに殴り込みをかける。健さんは決して派手な演技はしないけれど、観客の側が主人公に感情移入して盛り上がっていくわけです。でも、僕は70%どころか、120%出し切ってましたから(笑)。畑中少佐の印象が強すぎて、その後は二枚目役がやりづらくなってね。反対に、抑えた演技で脚光を浴びたのは当時、文学座にいた高橋悦史さんでしょう。高橋さんが演じた井田正孝中佐は、畑中少佐の説得に延々と悩み続けながら、最後には一緒に蜂起する。僕の役どころとは対照的なキャラクターで、あれが彼の出世作になりました。

〈今年は戦後77年に当たり、「日本のいちばん長い日」の上映から55年の月日が経過したことになる。だが、ウクライナ情勢を見ても「戦争」はいまだに遠い存在ではない〉

 僕の感覚では、戦争がなくなることは100%ありません。すべての人々が平等にならない以上、戦争は絶対になくならない。日本が巻き込まれる可能性も0%ではないでしょう。今後、“日本のいちばん長い日”がもう再び訪れないことを願っています。

黒沢年雄(くろさわ・としお)
俳優。1944年、神奈川県生まれ。日大横浜学園高校を卒業後、64年に第4期オール東宝ニュータレントに合格。「日本のいちばん長い日」(岡本喜八監督)など多数の映画、ドラマに出演し、歌手としても「時には娼婦のように」が大ヒットした。

デイリー新潮編集部

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