岸田首相は内閣改造・党役員人事で「鎌倉殿」人事を参考に?「萩生田政調会長」「高市経済安保相」起用の本当の狙い

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「棚上げ人事」の思惑

 なお、萩生田氏は内閣改造直前の記者会見で経産大臣続投に意欲を示し、自分は骨格ではなかったのかと拗ねてみせたが、実はこれは、政調会長をクビになる高市早苗氏への配慮と見られている。自分が猟官運動をして政調会長を射止めたわけではなく、あくまで岸田首相の意向だということをアピールして、高市氏の機嫌を損ねないようにした……。もし本当にそうだとすれば、「なかなかの政治家」である。岸田首相にとって、骨格と呼ぶにふさわしい人材といえる。

 一方の高市氏だが、経済安全保障は岸田首相の目玉政策だ。その担当大臣に、女性登用かつタカ派勢力に配慮するかたちで高市氏を充て、閣内に取り込んだ。

 これには岸田首相の「棚上げ人事」の思惑が透けて見える。というのも、政調会長時代の高市氏は、特に政府提出法案の党への説明で、「重箱の隅をつつくような文句を言う」(キャリア官僚)のが常態化していたからだ。

 岸田首相が財政再建を重視し、消費税増税派なのに対して、亡くなった安倍元首相の薫陶を受けた高市氏は積極財政派で、消費税増税にはやや消極的。政策の食い違いがあるので、これ以上、政策全般を左右する党の役職に就けてはおけないが、タカ派の反発をおそれて野に放つこともできない。その意味で、経済安保大臣にうまく棚上げした格好だ。

つまらない政治は、悪政よりも恐ろしい

 今回のつまらない内閣改造で、日本の政治にはダイナミズムが欠如していることが露呈した。

 長期政権を築いた安倍元首相は、次々に問題提起をしては賛否両論の渦中で国政選挙を戦い、6度も圧勝してきた。有事法制しかり、アベノミクスしかり……。そこには安倍氏個人の理想があり、実現しようとする信念があった。世間の耳目を集めることで、良くも悪くもダイナミズムが生まれ、一般国民の政治への関心を呼んだ。

 一方で、民主党から民進党、立憲民主党へと退化していった野党にはまったく魅力がなく、最大のダイナミズムを生むはずの政権交代も、2009年を機に「ろくなものではない」とのイメージが国民に植え付けられてしまった。

 いきおい、政権を奪われる心配のない自民党は、政治のダイナミズムにこだわる必要などなくなり、安倍政権末期になると、桜を見る会やモリカケ問題が噴出し、政権の増長が明らかになった。そして今回の岸田の内閣改造では、ひたすら安全運転に終始して変化を生まないように努めることになった。

 政治からダイナミズムが失われれば、国民の関心は薄れ、選挙での投票率は低迷する。国内の貧富の格差はますます広がっており、貧困が根にあるテロ事件も必ず増える。「貧しきを憂えず、等しからざるを憂う」は論語の言葉だが、日本の富の分配は公正ではないと多くの国民が感づいている。つまらない政治は、悪政よりも恐ろしい。政治に倦(う)んだ国民全体を徐々に蝕んで、テロの温床になってしまうのではないか……。

 ウクライナで戦争が続き、中国が海洋進出を強め、円安や物価高で庶民生活は痛めつけられている。コロナ第7波は参院選が終わった途端に日本全体を襲っていて、選挙が終って政権が緩んでいるのではないかとも思いたくなる惨状だ。国会で安定した議席を得て、政権安泰だから運営は安全に……では今の国際環境も経済環境も乗り越えられない。
 岸田首相の「聞く力」が、議論を避ける言い訳になっている現在の状況を危惧している。

武田一顕(たけだ・かずあき)
元TBS北京特派員。元TBSラジオ政治記者。国内政治の分析に定評があるほか、フェニックステレビでは中国人識者と中国語で論戦。中国の動向にも詳しい。初監督作品にドキュメンタリー映画「完黙 中村喜四郎~逮捕と選挙」。

デイリー新潮編集部

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