安倍氏追悼演説先送り 甘利明前幹事長には評価を上げる選択肢が一つだけあったのに

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慣例を巡る報道

 安倍派の議員が怒らないはずはないのだが、少なくとも全国紙は7月28日まで「自民党内部で甘利氏に対する反発の声がある」との記事は掲載しなかった。

 先行したのは「甘利氏が追悼演説を行う」の報道だった。26日から27日にかけて、通信社と全国紙が「8月3日召集の臨時国会で甘利氏が安倍元首相の追悼演説を行う」と一斉に報じたのだ。担当記者が言う。

「『なぜ甘利氏なのか?』という疑問には、『安倍氏遺族の意向』と説明した新聞社が大半でした。一方、読売新聞などは『昭恵夫人の意向』と、具体的な名前を記述して報道しました。この報道には一部の関係者から、『本当に昭恵夫人が甘利氏の名前を出したのか?』と疑問の声も出ています。いずれにしても、この時点で大手メディアは、『野党が反発している』と書くだけで、自民党内部での反応を伝えることはありませんでした」

 甘利氏が不適格である理由として、27日の紙面では主に“慣例”から逸脱する点が挙げられた。

「与党の首相経験者が死去した場合は野党の党首クラスが、野党幹部の場合は首相か首相経験者が追悼演説を行う、という事例が多かった。これを慣例として尊重するか、その時々の臨機応変な人選を認めるか、大手新聞社の間でも見解は割れました」(同・記者)

「政治とカネ」問題

 殺害された大物政治家という前例から見ると、社会党党首だった浅沼稲次郎氏(1898~1960)が東京都千代田区の日比谷公会堂で17歳の少年に刺殺された際は、首相だった池田勇人氏(1899~1965)が追悼演説を行った。

「現職の首相だった大平正芳氏(1910~1980)や小渕恵三氏(1937~2000)、首相経験者ではありませんが安倍さんの父親である安倍晋太郎氏(1924~1991)が病死した時も、野党第一党だった社会党や社民党のトップが追悼演説を行っています」(同・記者)

 野党の幹部議員ではなく、与党自民党の甘利氏が追悼演説を行うのはおかしい──こうした声に読売新聞は「立憲民主党が国葬に反対していることも影響した」と説明している。

 しかし、翌28日の全国紙では論調が一転した。野党だけでなく自民党からも「なぜ甘利氏なのか」と異論が出ていると報じたのだ。

 東京新聞は28日の朝刊に「甘利氏演説に疑問の声 安倍氏追悼、与野党から」の記事を掲載した。この記事で自民党の《執行部の一人》が甘利氏の起用に異議を唱えている。

 岸田内閣は方針を素早く転換する。翌29日の朝刊で産経と毎日が演説の先送りを報じたのは冒頭で見た通りだ。

「甘利さんは2016年、UR都市機構に対する口利きを依頼され、見返りに現金や接待を受けたと週刊文春に報じられました。新聞各紙は自民党の議員からも『政治とカネの問題で疑惑を報じられた甘利氏が追悼演説を行うのはいかがなものか』という声が出ていると報じたのです」(同・記者)

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