なぜ異常な猛暑でも「夏の甲子園」を強行するのか 球児の健康より「大人の都合」が優先される「無言の圧力」への違和感

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そろそろ終わりにしませんか

 私は、高校球児だった自らの経験、数年前まで少年野球のコーチと中学硬式野球(リトルシニア)の監督を務めた経験、そして40年以上におよぶ取材経験を総合して、「真夏の甲子園はもうやめませんか」と改めて提案する。

「真夏は絶対やめるべきだ!」とはあえて主張しない。「議論を始めませんか!」と大きな声で呼びかけたい。そもそも、この猛暑下では、選手だけでなくスタンドで応援する生徒や父母、一般のファンをも重大な危険に巻き込む。その異常さを異常と思わない(言わせない)無言の圧力を「そろそろ終わりにしませんか」と、本当は高校野球の指導者自身に、声を上げてほしいと願っている。

 本当に問いかけたいのは、実は暑さだけではない。「甲子園出場」ばかりが目標にされ、ごく一部の選手しか出場できない甲子園のためだけに高校野球の一年間は回っている。甲子園出場はほとんど叶わない球児たちが、もっと明確にやりがいを感じられる目標設定がなぜ提示または創出できないのか。「高校野球の目標は甲子園だけじゃないぞ、こんなやりがいだってある!」といった発信は、ほとんどないのが過去数十年の現実だ。実際、甲子園に出場している高校でさえも、部員が100人前後の大所帯なら、スタンドで太鼓を叩き、声を嗄らして応援するだけ、という選手が大勢いる。それで本当に充実した高校時代だったと言えるのだろうか。そのような問いかけさえ、されずに来ている。

夏休みは家族と過ごす時間

 高校野球は、春のセンバツを毎日新聞、夏の選手権を朝日新聞が主催。そして春夏ともNHKが中継している。そのためか、NHKと両新聞社、系列のテレビ局は高校野球に関する問題点などはほとんど積極的に報じない。その責任は重い。

 少年野球と中学野球に携わって知ったのだが、夏の甲子園が猛暑の中で行われるため、「将来、甲子園を目指す野球少年なら、猛暑の中で野球をするのは当たり前」という不文律が日本の小中学校の野球指導者の間にはある。それは高校野球(夏の甲子園)の深刻な悪影響だと感じた。もし夏の甲子園が秋に開催時期をずらし、環境省やスポーツ庁が推奨するとおり「気温31度を超えたら屋外で野球はしない」と方針を変えたら、少年たちも猛暑の呪縛から解放されるだろう。「野球は好きだけど、暑いのは苦手だから野球をやめる」という子も減らせるだろう。

 私の住む東京都武蔵野市に、関前サッカークラブという少年サッカーのチームがある。「なでしこジャパン」で活躍する岩渕真奈選手が小学校時代を過ごしたチームで、同じ地域にあって世界大会(ダノンカップ)優勝経験もある横河SCにも時々勝つ強豪チームだが、「夏休みには練習しない」と聞いて驚いた。もう10年以上前だが、小島監督に理由を訊くと、「だって、夏休みは家族とすごす期間でしょ」と。大方の野球指導者にはまったくない感覚で胸をつかれた。まったく潔い。以来、私はその言葉が頭を離れない。

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