なぜ異常な猛暑でも「夏の甲子園」を強行するのか 球児の健康より「大人の都合」が優先される「無言の圧力」への違和感

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暑い中で鍛えることも

 二部制というのは運営的に面倒や負担が大きそうだが、とにかく、猛暑対策について検討が始まったことは歓迎したい。そして、時期の変更や『他球場の使用』まで選択肢に入れた議論が始まるのならもちろん拍手を送りたい。ただその議論が、実体の見えない密室で行われるのでなく、高校球児や必ずしも強豪校ではない熱心な指導者たちの考えが反映さものであってほしい。

 ちなみに私は、週刊新潮に連載中の《アスリート列伝 覚醒の時》の取材でお会いした「元祖甲子園アイドル」太田幸司さん(三沢高卒)に意見を聞いた。すると太田さんは「時期をずらすのはひとつだけど、甲子園の舞台だけは動かさないでほしい」とまず言った。そして、
「僕らは青森県からきたわけだから、大阪で電車を降りた時の熱風にはビックリした。本当に暑かった。でも、その中でやれたのだからねえ」と言ったあと、少し厳しい顔になって、こう続けた。太田さんは宝塚シニアで中学生たちのコーチをしている。

「人間は楽を覚えると弱くなるんだ。今の子どもたちは暑さに弱い。練習が始まるとすぐ具合が悪くなる子もいる。だから、暑い中で鍛えることも大事なんじゃないかな」

 太田幸司さんに言われると、返す言葉がないというのも、また元高校球児の素直な気持ちではある。こうした意見を互いに交わし合ったら、何か名案が浮かぶ、あるいは多くの人が少しずつでも納得がいくような考えの変化が起こるのではないだろうか。

充実と成長のために

 冒頭で書いたように、高校野球は「見る立場の大人のためにある」のではない。甲子園に出る一部の選手のものでもなく、約13万1259人(5月末時点)の高校球児一人ひとりの充実感と成長のためにあるべきなのだ。しかしいまは、甲子園出場を果たした1000人弱の球児だけが満足して終わるものになっていないだろうか? 本当に高校生にとって何が幸せな道なのか。あくまで高校野球は「見るもの」でなく、感性豊かで悩み多き十代の高校生たちの青春のパートナーだ。そのことを思い起こして議論を始めたい。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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