薬物乱用者は見た目で分かるのか? 子どもを薬物から守るため、親だからこそ掴める「兆候」
たとえば、緊急時の連絡や防犯を目的に、子どもが小学校低学年の頃からスマホを持たせているご家庭は少なくないだろう。また、子ども同士のコミュニケーションにもスマホはいまや不可欠。だが、その一方で、スマホが極めて容易に「薬物密売」のツールと化すことも事実だ。元厚生労働省麻薬取締部部長の瀬戸晴海氏は、『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)のなかで、その驚愕の実態を綴っている。同書の内容を加筆・再構成しつつ、親が薬物の脅威から子どもたちを守るためのヒントを紹介していきたい。
よほどのことがない限り、周囲は気づかない
「薬物を使用している人は“よれている”とか“感情の起伏が激しくてすぐに怒りだす”と聞きますが、実際はどんな感じなのでしょうか。薬物使用者を見抜く方法はありますか」
私(瀬戸氏)が企業のコンプライアンス研修に参加すると、このような質問をよく受けます。社員が薬物事犯で逮捕されれば一大事でしょうから、企業の担当者にすれば切実な問いかけだと思います。では、実際に外見や挙動だけで薬物乱用者を見抜くことは可能なのでしょうか。
私は麻薬取締官(マトリ)として40年近くにわたって薬物捜査に携わり、現在も民間の立場で薬物問題の調査研究や、薬物対策に従事しています。そうした経験を踏まえた上で、端的に申し上げると、この質問に対する答えは「ノー」です。
一般の方が思い浮かべる薬物乱用者の姿は、映画やテレビドラマで誇張されたイメージに過ぎません。アルコールを摂取すると、呼気の臭いや酩酊状態でそれと判断できますが、いわゆる違法薬物の場合、よほどのことがない限り、周囲は気づきません。より正確に申し上げれば、職場の同僚が明らかな違和感を覚えるのは、薬物の中毒症状が深刻な状態まで進行し、慢性中毒に至ってからでしょう。
「乱用・依存・中毒」
薬物問題を考える際に理解して頂きたいのは、「乱用・依存・中毒」の違いと相関性です。まず「乱用」とは、薬物を注射で打ったり、吸引して使うといった“行為”を指します。そして、薬物乱用者のなかには何ら問題なく日常生活を送っている人が沢山います。
こうした乱用を繰り返した結果、脳が変容して、薬物の使用を止めたくても、止められなくなってしまいます。この状態は「依存」に陥っていると言えます。つまり、依存は乱用の結果生じる“症状”なのです。そして、依存の度合いがより深まって乱用の頻度が増し、幻覚や妄想が発現するようになる。これを「慢性中毒」と呼びます。
では、“子ども”が薬物を使用していたとして、見抜くことは不可能なのでしょうか。
いまの日本では、スマホとSNSの爆発的な普及によって「密売革命」と呼ぶべき状況が起きています。最も懸念されるのは、子どもたちの被害に他なりません。たとえ未成年者でも、スマホさえあれば容易に密売人と接点を持つことができることをご理解ください。
そうした状況下で、もしお子さんが薬物を使用していたら――。そのときに異変を察知できるのは、一緒に暮らしている親御さんくらいだと私は考えます。先ほども申し上げた通り、見た目だけで乱用を疑うことは困難ですが、「暴言を吐き、嘘をつく」「お金を無心する」「生活態度が乱れる」「スマホのやり取りを見せたがらない」といった二次的な行動に「何かおかしい」と察知することはできます。子どものニュートラルな状態を知っているからこそ、些細な変調に気づけるわけです。日頃から親が子どもの様子をきちんと把握していることは、薬物乱用を防ぐ意味でも極めて大事なことなのです。
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