中国政府は大慌て 都市部「中産階級」の不満はなぜ爆発したのか

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中産階級の「ノー」

 米S&Pグローバルは「今年末までに中国の地方政府の3割に破綻リスクが生じる」との試算を公表した。不動産市場の低迷で土地使用権売却収入が落ち込み、インフラ債などの利払い費が膨らんでいるからだ。新型コロナ対策に必要な財政負担も重くのしかかっており、預金者の救済が中央政府の思惑通り進む保証はないと言わざるを得ない。

 中国政府にはさらなる難題が待ち構えている。

 中国の不動産危機は昨年秋の恒大集団の経営難に端を発しているが、その後も苦境に陥る不動産大手が後を絶たないことから、建設工事が止まった未完成住宅の購入者が住宅ローンの返済を拒否するという動きが広がっている。

 中国では新築マンションの竣工前に購入契約を済ませることが多い。入居前から住宅ローンの返済が始まることが通例となっているが、ローンを払っているのに住宅が完成する前に不動産企業が倒産したら元も子もない。

 権利意識に目覚めた中産階級は物件引き渡しの遅れに抗議するため、住宅ローンの返済拒否という自衛手段に出ているわけだが、返済拒否が広がれば銀行の貸出残高の2割を占める住宅ローンが不良債権化してしまう。中国の民間調査会社によれば、工事の停止で引き渡しが遅れているマンションに関連する住宅ローンは2兆元(約41兆円)に上る。

 金融不安への警戒を強める中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)は14日「金融機関にリスク対応を徹底させる」と発表した。さらに18日、未開発物件の完成を後押しするため金融機関に対し不動産開発企業への融資を促したが、事態が改善するかどうかはわからない。「支払い拒否」が金融危機の引き金になるとの危惧が強まっている。

「支払い拒否」という現象は、中産階級が中国政府に「ノー」を突きつけているあらわれでもある。「懐の豊かさ」を保障することができなくなれば、中国政府の正統性を揺るがす由々しき事態にもなりかねない。

 ウクライナ危機で「漁夫の利」を得たとされる中国だが、足元の基盤は思いのほか脆弱なのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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