盆踊りに不参加を呼びかけたマレーシア閣僚 「イスラム教は寛容」は本当?(中川淳一郎)

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 1977年に開始し、現在は3万5千人が参加するというマレーシアの日本人会主催の盆踊りで、同国閣僚による不参加呼びかけがあったそうです。「宗教担当」で「全マレーシア・イスラム党所属」のイドリス首相府相が盆踊りには仏教の影響があると指摘したのだとか。

 当地の日本人会のHPを見ると、イスラム教徒の女性が着用する髪の毛を隠す「ヒジャーブ」を巻いて浴衣で踊る女性と、ヒジャーブを着けていない女性が並ぶポスターが公開されています。さらに右側にはおでこに点が描かれた褐色の女性も浴衣を着て踊っています。あっ、ヒンズー教徒の女性がおでこにつける印「ビンディ」ですね。

 これだけ多様性に配慮したイベントでしかも歴史があり、多くの人が参加するのにイドリス氏は「邪教のミサには参加するんじゃねぇ」と物言いをつけたわけですね。外務省のデータには、マレーシアの宗教人口の割合はこうあります。

〈イスラム教(連邦の宗教)(61.3%)、仏教(19.8%)、キリスト教(9.2%)、ヒンドゥー教(6.3%)、儒教・道教等(1.3%)〉

 これは、民族と関連がありそうです。

〈マレー系(69.6%)、中国系(22.6%)、インド系(6.8%)、その他(1%)〉

 イスラム教徒が多数派なのは理解しますが、仏教と関係のある盆踊りには参加するな、ってこれは新しい発言です。そもそも私は盆踊りを仏教イベントと捉えたことは人生約49年で一度もありません。もちろん、先祖を迎え入れる「お盆」と関係しているのは知っていたものの「宗教行事」と捉えたことはなかった。

 なにせ「東京音頭」なんて「踊り踊るなーら、ちょいと東京音頭」「花の都の真中で」と単に酔っ払いがタコ踊りしているようなただただのんきでフィーバーしているだけの歌詞じゃないですか。

 9.11の米同時多発テロの後、イスラム教がいかに寛容な宗教か、とイスラム教を擁護するような書籍の編集に携わったことがあります。その時、取材した研究者たちは「イスラム原理主義者とイスラム教徒は違う」としきりと言い、私もその主張を書きました。

 あれから21年後、盆踊りを邪教の儀式扱いするマレーシアの閣僚、全然寛容じゃないですよね。私はイスラム教で許された「ハラール」の食材(禁豚肉が代表的)を使う店に行き、おいしいと思い、リピートもしました。そして、アフガニスタンとパキスタンというイスラムの国でもその国の食べ物を食べました。

 私自身がどこの宗教にも属していないからこのようなことができたのかもしれませんが、今回のイドリス氏は私の行為をどのように捉えるのか?

「イスラム教徒ではない人間がハラールの食材を使った料理を食べるとは許せない!」となるのか? それとも「ハラール食材を食べるこの無宗教者は立派である!」となるか。

 同氏は日本で仏教由来の精進料理(ハラール対応)を食べるイスラム教徒に対しては何と言うのですかね? しかも彼らは日本で、教義に従って土葬を求めています。なんなんですか、この自分本位っぷり。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年7月21日号掲載

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