尹錫悦の「従中」に怒り出した米国 「合同演習」に続く踏み絵は「半導体同盟」

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内側からIPEFを壊す

――だから米国の財務長官が韓国の大統領に「供給網」への参加を求めた……。

鈴置:米国は半導体大国の韓国は自陣営に取り込んでおきたいところ。ところが韓国は中国にいい顔をし始めた。IPEFの設立総会にリモートで参加した尹錫悦大統領も「開放性・包容性・透明性」を訴え、中国排除に公然と異を唱えたのです(「『東アジアのトルコ』になりたい韓国、『獅子身中の虫』作戦で中国におべっか」参照)。

 少なくとも「chip4」に参加を表明するまで、米国は韓国にスワップをつけるなど甘い顔はしないと思います。尹錫悦の韓国は合同演習などの軍事面に限らず、半導体同盟など経済面でも米国側に戻ってはいないのです。

――となると、「日本は韓国に譲歩しないと米国に怒られる」という説は……。

鈴置:日本人を騙すために韓国が作ったフェークニュースです。韓国の意向を受けて動く日本の専門家もそう言って走り回っていましたので、信じ込んだ日本人もいましたが(「尹錫悦はなぜ『キシダ・フミオ』を舐めるのか 『宏池会なら騙せる』と小躍りする中韓」参照)。

 もし、韓国が中国側に行くことが明白になれば、米国は韓国を経済面で徹底的に追い詰めるでしょう。1997年の通貨危機の時も、中国に傾く韓国にお仕置きしようと米国は韓国にドルを貸さず、日本にも助けないよう命じました(『米韓同盟消滅』第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米韓」参照)。

 日本は今、韓国に譲歩する必要もなければ、下手に譲歩してもいけないのです。それこそ米国に怒られます。合同軍事演習や「chip4」で韓国が米国の言うことを聞く前に、日本が韓国にスワップを与えようとしたら、米国から「やめろ」と言われる可能性が高い。

 半導体関連の3品目に関しても、案件ごとの輸出審査が不要ないわゆる「ホワイトリスト」待遇に韓国を戻そうとすれば、米国から「少し待て」と言われるかもしれません。

ホワイトリストに戻せ

――韓国がホワイトリストに戻せと日本に要求するのも……。

鈴置:米国を裏切った時のお仕置きとして使われるであろう武器を、日本から取り上げておきたいのでしょう。もし、日本政府が半導体素材の対韓輸出を1件ごとに時間をかけて審査し始めたら、韓国の半導体生産はたちまち支障をきたします。
 
 それは通貨危機をも呼びかねません。韓国の半導体輸出が滞れば、ウォンを防衛する際に必要なドルも稼げなくなるからです。

 朴振(パク・ジン)外交部長官が7月中旬に訪日した際「ホワイトリストへの復帰」を日本に要求したと韓国メディアは報じました。対立を深める米中の間で、韓国は死に物狂いなのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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