注射するだけで老化の進行を遅らせられる? 順天堂大チームが開発した「老化細胞除去ワクチン」

ドクター新潮 医療

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抗体医薬のデメリットは

 先の南野氏も、老化細胞を根絶やしにする必要はないと強調する。

「がん細胞の場合は手術や抗がん剤治療などで根こそぎ除去しないと、どこかに残った1個が分裂をくり返して再発してしまいます。しかし、老化細胞ならゼロにする必要はなく、半分にすれば効果が出ます」

 先述の通り、南野氏らのワクチンは免疫系に働きかけてGPというタンパク質を目印に抗体を作らせ、老化細胞を除去できるようにするものだ。ワクチンは免疫系に抗体を作らせるが、GPを目印に老化細胞を攻撃する抗体自体を直接送りこむ方法もある。いわゆる抗体医薬だ。

「現在、人への応用に向けてワクチンとともに抗体医薬の開発も進めています。ワクチンと抗体医薬のどちらにも一長一短があり、ワクチンの場合は目印とするタンパク質(抗原)に対する抗体が複数できます。その分、効き目が高いと考えられますが、逆に言うと、どんな抗体ができるかは免疫系次第なので、こちらではコントロールできない。一方、抗体医薬では基本的に1種類の抗体を送りこみますが、何か副作用が出た時は投与を中止すればいい。ただし、抗体医薬はワクチンに比べると製造コストが格段に高い。その点が大きなデメリットです」

副作用の心配は?

 老化細胞除去ワクチンの接種には、副作用の心配はないのだろうか。

「マウス実験では副作用が少なく、効果が長く持続することを確認しています。既存の抗がん剤を元にした老化細胞除去薬では、アポトーシスを止めている遺伝子の働きをブロックするように作用するものが多いのですが、これだと元々アポトーシスを起こしにくい血球系の細胞にも作用してしまうので、貧血になったり白血球が減少したりなどの副作用を起こしやすいのです。われわれのワクチンはそれに比べると、精度よく老化細胞に絞って取り除ける治療になると考えています」

 今、ヒトでの安全性を確かめる臨床試験の準備をしているところというが、今後の課題にはリアルな側面も。それは医術より算術、つまり資金集めだという。

「ワクチンや抗体医薬の開発にも、臨床研究の実施にも巨額の資金が必要です。まずはスタートアップを作って、VC(ベンチャーキャピタル)の方に出資してもらう予定。幸い、昨年末に論文を発表すると、国内外から連絡を頂きました。どこと組むかを検討しているところです」

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