注射するだけで老化の進行を遅らせられる? 順天堂大チームが開発した「老化細胞除去ワクチン」

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老化細胞ががんを防ぐ?

 体に悪影響を及ぼす老化細胞を取り除けば、たしかに健康になりそうだ。しかし、どうして人体には老化細胞なるものが年を取るにつれてたまっていくのか。

「細胞がさまざまなストレスを受けると、中に収められた生命の設計図であるDNAに傷が入ります。少しの傷なら修復機構が働いて正常な状態を取り戻せますが、修復できないほどの傷が入る場合もある。このときアポトーシスと呼ばれるプログラムが働けば、細胞が自ら死んで事なきを得ます。ところが、アポトーシスの仕組み自体が壊れた細胞は、がん細胞か老化細胞になるのです」

 延々と分裂し続け、生命に差し迫った脅威を与えるがん細胞に比べれば、分裂しないまま生きている老化細胞の害は少ないように思える。

「がんを抑制するのが老化の役割の一つです。老化の仕組みが働かないマウスを作ると、がんを発症することをわれわれも実験で確かめました。細胞は老化することでその細胞自体ががんにならないようにしているだけでなく、老化細胞が免疫系に働きかけ、周囲の異常な細胞を排除してがんを防いでいると考えられています」

老化細胞の「二面性」

 だが、その一方で老化細胞は炎症物質を出し続け、その影響で肉体は徐々に蝕まれてしまう。

「実は、がんの発症率や転移率は老化細胞の蓄積によって上昇するのです。マウスに高脂肪食を与えて太らせると、老化細胞がたくさんできるのですが、高い確率で肝がんを発症します。また、マウスにタバコの煙を吸わせると、肺に老化細胞が増えるとともに肺へのがん転移率が上がることも分かっています」

 老化細胞はがんを抑制するかと思いきや、一転してがん化を促進し始める。高橋氏はこれを「老化細胞の二面性」と呼んでいる。

「細胞の老化にはがんを抑制するだけでなく、傷の治りを早くしたり、病原体に感染した時に免疫系の攻撃部隊を早く呼び込むなどの作用があります。ところが老化細胞が一定数以上に増えると、今度は悪さをするようになるわけです」

 仮に免疫系が正常に働いていれば、老化細胞は適切に除去される。しかし、加齢で免疫系の機能が衰えたり、細胞がストレスを受けて老化細胞が過度に増えたりすると、老化細胞の出す炎症物質によって慢性炎症が起こってしまう。

「とくにがんが発生した後、老化細胞はがんを抑制するのではなく、悪性化や転移の方に寄与しているのではないかと見られています。日本でも年齢が40歳を超えるとがんの罹患率が跳ね上がるのは、老化細胞の蓄積と関係があるかもしれません」

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