中国が日本の周辺海域で資源調査 専門家の間で語られる“不都合な真実”とは

国際 中国

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 6月26日付産経新聞は「中国の海洋調査船が6月上旬、沖縄県・石垣島北方の排他的経済水域(EEZ)内で海底の堆積物を試掘した疑いがある」と報じた。

 外務省などによれば、中国の海洋調査船「東方紅3」が、6月4日から7日にかけて、石垣島北方70キロメートル沖の海域で日本政府の同意を得ない調査活動を実施した。「ピストン・コアラー」と呼ばれる筒状の採泥装置を始め、水中カメラやロボットアームを装備した遠隔操作型無人潜水機などで海底を採掘して堆積物を収集したと見られている。2018年にも中国の別の調査船が当該海域で調査を実施していたという。

 2017年に当該海域を調査した海洋研究開発機構(JAMSTEC)は「当該海域には希少金属(レアメタル)や次世代燃料として期待されるメタンハイドレードといった天然資源が埋蔵されている可能性がある」とする論文を発表しており、日本政府は「中国側は日本の情報を参考に海域を選定しているのは明白だ。計画的に資源埋蔵量の実態を調べている」と懸念している。

 2012年の鉱業法の改正により、資源探査は海上保安庁の立ち入り検査や中止命令の対象となったが、中国の調査船は国連海洋法条約で管轄権免除の対象となる公船に当たるため、現場の巡視船は権限を行使できない。政府部内では日本の周辺海域で活発化する中国側の資源開発についての危機意識がかつてなく高まっているという。

 以上が記事の要約だが、日本が定める国境を中国側が侵犯するのは言語道断であることは言うまでもない。だが、資源開発の話になると、残念ながら首をかしげざるを得ない見解などが流布しているのが実情だ。

 その典型例が東シナ海のガス田開発だと筆者は考えている。

「不都合な真実」

 岸田総理は26日、主要7カ国首脳会議(G7サミット)の場で、中国による東シナ海の日中中間線の西側(中国側)でのガス田開発を巡り「力による一方的な現状変更の試みを認めない」と訴えた。日中中間線の中国側で最近、掘削機材などが新たに設置されたことを、ロシアによるウクライナ侵攻後も中国がインド太平洋地域で力による現状変更の試みを継続・強化している実例として挙げた形だ。日本の首相がG7サミットで中国のガス田開発について直接抗議したのは初めてだ。

 この問題は2003年8月に中国国有石油・ガス企業である中国海洋石油(CNOOC)が日中中間線から4キロメートル中国側に入ったところに存在する春暁(日本名は「白樺」)ガス田の開発のために、生産設備や中国本土にガスを供給するパイプラインの建設に乗り出したことに始まる。これに対し日本側は「中国側の海域の試掘であったとしても、地下構造がつながっているガス田の採掘を始めると日本側の資源まで吸い取られてしまう」と問題視し、外交ルートを通じて当該海域での開発作業の即時停止と、中国側が採取した地下構造のデータの無償提供を求めた。

 胡錦濤国家主席(当時)が2008年に来日した際、中国側は「春暁ガス田の共同開発の相手として日本企業の参加も認める」と伝えてきた。その後2010年に中国側が態度を変更したことで共同開発の話は沙汰止みになってしまったが、このガス田開発に興味を示す日本企業がいなかったという「不都合な真実」も影響している。日本側はその後も中国側に働きかけを行っているが、事態が進展する目途は立っていない。

 日本では「中国側の一連の対応はけしからん」という論調で一色だが、専門家の間では「日本側の主張の方が理不尽だ」というのがコンセンサスだ。「地下構造がつながっているとしても早く採取した者が勝ちであり、これを理由に多額の費用をかけて得た地下のデータを無償で公開せよというのはナンセンスだ」というのが国際石油業界の常識だからだ。

 当時、筆者も国内の専門家とともに「日本側の主張は的外れであり、国際的な評判を落とすだけだ」と主張したものの、聞く耳を持つ政治家は皆無だったことを思い出す。

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