JR上野駅に到着する電車はなぜ停車直前に大失速するのか 櫛型ホームの奥深き世界

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2つの不満

 ホームが櫛型(くしがた)に並び、線路の行き止まりの先もホームの続きとなっている駅をご存じだろうか。アルファベットのEが縦に並んだ形をイメージしてもいいかもしれない。たとえば、JR東日本の上野駅やJR西日本の京都駅、天王寺駅のそれぞれ一部、それから大手私鉄の都心の終着駅のいくつかと、結構多い。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏が綴る。

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 櫛型のホームが並ぶ構造をもつ駅では、改札口からホームまで、それにホームから他のホームへの移動は、階段などを上り下りすることなく平面上で行えて便利だ。けれども、こうした駅に列車が止まろうとするときに、もどかしい思いをしたことのある人は多いのではないだろうか。

 不満はこれから挙げる2つのどちらかである。1つは、列車の止まる位置が手前過ぎるということ。もう少し前方にある線路の行き止まりまで進んでくれれば改札口に近いのに、という停止位置への不満だ。もう1つは、停車寸前の大失速。線路の行き止まり直前まで列車は進んでくれるが、それまで停車していた途中の駅と比べて列車が停車するまで明らかにゆっくり走り、なかなかドアが開かずイライラするというものである。

 実を言うと、列車が線路の行き止まりのはるか手前に停車するのも、線路の行き止まりの直前までゆっくり進むのも、理由は同じだ。それは、列車を線路の行き止まりに衝突させないための配慮である。

少なくとも50mは手前に停止

 JR在来線や大手私鉄、地下鉄の列車は、通常、時速60kmくらいの速度で駅のホームに進入していく。電車のブレーキの効きは早く、しかも強いので、ホームの中ほどでスピードは時速30kmくらいにまで落ちる。すると運転士はブレーキをやや弱め、残り50mから80mまでの間になったらブレーキの強さを加減しながら所定の位置にぴたりと止めていく。熟練の運転士になると、停止位置の誤差はゼロかプラスマイナス30cm以内というケースがほとんどだ。

 今日では、列車を安全に停止させるための保安装置が導入され、線路の行き止まりへの衝突の危険は少なくなった。ことに大都市の鉄道では、運転士のミスによるオーバーランを防ぐ方策まで施されている。このため、列車をできる限り線路の行き止まりの近くに止めてほしいし、またはできる限りてきぱきと走ってほしいというのは人情だ。

 でも、線路の行き止まりが設けられた駅では、そうでない駅と同様の速度で列車を止めようとする場合、線路の行き止まりから少なくとも50mは手前に列車を停止させなくてはならない。車輪のスリップなど万が一の事態に備える必要があるからだ。

 JR在来線や大手私鉄の大多数の車両1両の長さは20mであるから、50mは2両と半分となる。しかし、線路の行き止まりの直前で列車を止めるとしたら、最後の50mは時速10km以下、直前では時速5km以下と、人が小走りで進むスピードまで落とさなければならない。

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