4月期ドラマ「ベスト3」 それでも「マイファミリー」に感じた“2つの疑問”とは

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「マイファミリー」(TBS)

 このドラマの場合、良かったのは役者。主人公で「ハルカナ・オンライン・ゲームズ」CEOの鳴沢温人に扮した二宮和也(38)、その妻・未知留役の多部未華子(33)、この2人の親友・東堂樹生役の濱田岳(33)、同じく三輪碧役の賀来賢人(32)の演技が、それぞれ見応えがあった。さすがは30代の実力派たちだった。

 一方で脚本にはキズが目立った。あるTBSスタッフによると、序盤で視聴率がやや伸び悩んだため、脚本のテコ入れが行われたという。その分、無理が生じたのではないか。

 確かに4月24日放送の第3話の視聴率は世帯11.9%(個人7.1%)。5月1日放送の第4話は世帯11.0%(個人6.7%)。やや数字が低かった。その後は上昇カーブを描いた。

 二宮ら4人が際立った演技を見せたのは第8話。東堂の告白の場面である。

 東堂が鳴沢夫妻の娘・友果(大島美優)と三輪の娘・優月(山崎莉里那)の誘拐を打ち明けると、未知留は目に涙を浮かべながら東堂の頬を思いっきり平手で打った。信頼していた学生時代からの親友に裏切られたら、悔しくて、こうしたくなるだろう。リアルだった。

 三輪は憤り「警察に突き出そう。こんな奴の言うこと聞くことねぇだろう!」と叫んだ。一方、鳴沢は「東堂がなんでこんなになっちまったのか。オレはちゃんとコイツから聞きたい」と言った。演技が良いから、どちらの言葉にも説得力を感じた。

 矢面に立った東堂は憔悴しきった表情で真相を語り始めた。濱田も迫真の演技を見せた。

 この東堂の告白により、その娘・心春(野澤しおり)が5年前に誘拐された事件の詳細が明らかになる。東堂が友果をさらった動機もはっきりした。心春の事件について捜査を動かすためだった。

 ここに脚本のキズの1つがある。東堂は「このままじゃ報道協定の名の下に、事件があったことはもちろん、心春ちゃんと再び暮らす可能性まで葬り去られる」と思い、誘拐を思い立ったそうだが、あまりに現実離れしている。1年以上継続される報道協定などあり得ない。可能性はゼロだ。

 万一、警察側がそんな長期の報道協定を結ぼうとしても、記者クラブが絶対に受け入れない。協定はあくまで報道機関側の自主規制なのだ。

 報道協定は市民側の「知る権利」に関わるため、そもそも運用は慎重に行われる。誘拐事件の場合、人質の保護か死亡が確認されたら、すみやかに協定は解除される。また事件が長期化した場合、警察本部と記者クラブが随時、協定の扱いを協議する。警察が一方的に延長したり、放ったらかしにしたりするのは無理なのである。

 ちなみに過去の誘拐事件での報道協定で、最長期間は24日間。「名古屋市女子大生誘拐殺人事件」(1980年)の時だった。5年の期間は異様な設定であるのが分かる。

「ドラマだから、いいじゃないか」と言う人もいるだろう。だが、これはシリアスなミステリー。しかも報道協定は東堂の犯行動機の根幹に関わっていた。

「報道協定を打ち破るため、東堂は自ら動かざるを得なかった」。この大前提がなかったら、物語は最初から成立しない。それなのに報道協定の中身があり得ないものなのだから、いただけない。

 やはりクビを捻ったのは神奈川県警捜査一課長の吉乃栄太郎(富澤たけし)が心春を絶命させた傷害致死犯で、NEXホールディングスCEO・阿久津晃(松本幸四郎)の娘・実咲(凛美)を誘拐した犯人だったこと。

 世界的によく知られる「ノックスの十戒」というミステリーの鉄則がある。読者を欺かないためのルールだ。

 そこには「犯人は物語の当初に登場していなければならない」「事件は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない」などと書かれている。

 さらに「探偵(捜査陣)が犯人であってはならない」ともある。探偵と捜査陣は読者や視聴者をリードし、一緒に事件の真相を解明する立場だからである。

 同じTBSの「インビジブル」も警視庁捜査1課長代理・猿渡紳一郎(桐谷健太)が事件の黒幕。TBSのミステリーは警察内部に第1容疑者がいると考えて観たほうが良いのか。

「マイファミリー」は吉乃が犯人と匂わせる場面がいくつか用意されていた。そのうちの1つは第5話にあった。吉乃が部下の刑事・葛城圭史(玉木宏)とともに阿久津家を訪れると、実咲は吉乃の顔を見て、目を見張った。のちに分かることだが、親友だった心春から、母親・亜希(珠城りょう)の不倫相手として吉乃の写真を見せられていたからだ。

 ここでも疑問が生じる。実咲は吉乃を見た直後、タブレット内に収めた心春の写真を見直した。その時、どうして父親の阿久津らに「あの人、知っている」と、吉乃のことを話さなかったのか?

 小学生だった5年前には心春から口止めされていたが、今は中学3年生。信用できぬ人物が警察内にいたら、それは親に伝えるべきだという判断力はあるはず。ドラマを盛り上げるため、不自然さに目をつむってしまった気がする。

 吉乃が犯人だと言い当てられた人は少なくないはずだが、動機まで読めた人がどれだけいただろう。犯人判明後、通常のミステリーなら「そうだったのか!」と納得したり、「やられた」と思ったりするが、このドラマにはそれがなかった。

 一方で観る側の「犯人と動機に近づきたい」という欲求を掻き立てるという点においてはすぐれたドラマだった。次回につなげるため、終盤に衝撃的な場面を配置する構成はうまかった。

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