〈鎌倉殿の13人〉源頼朝と映画・仁義なき戦い「山守組組長」の意外な共通点

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 NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の人気を高めた最大の功労者は大泉洋(49)による源頼朝ではないか。群衆劇は強烈な憎まれ役がいたほうが面白くなる。過去にも頼朝と似た憎まれ役がいた。故・金子信雄さんが演じた山守義雄だ。名作映画「仁義なき戦いシリーズ」(1973~74年)の山守組組長である。

 頼朝と山守はともに強者がそろった組織のトップで、どちらも冷酷な策略家。恩人であろうが自分にとって不都合な人間は平気で殺してしまう。また2人とも狡猾。好色なところまで同じである。

 そもそも「鎌倉殿の13人」と「仁義なき戦いシリーズ」には共通点が目立つのだ。両作品とも様式美を排除し、リアリティーを重視している。敵との戦いの場面より内紛の描写が多いのも同じである。

 頼朝と山守は「おまえだけが頼り」と配下の人間にウソをつき、利用するところも共通している。

 例えば頼朝は源平合戦前の第4話で豪族・土肥実平(阿南健治)に頭を下げ、目に涙を浮かべながら、こう言った。

「今まで黙っておったが、ワシが一番頼りにしているのは実はおまえなのだ…力を貸してくれ。おまえなくして、どうしてワシが戦に勝てる」(頼朝)

 感激した土肥は頼朝軍に加わるが、頼朝が皆に同じことを言ったのはご記憶の通り。

 一方、広島県呉市に本部を置く山守組の組長・山守義雄も子分へのウソが十八番だった。

 シリーズ第1作「仁義なき戦い」において、山守は対立する土居組の土居清組長(故・名和宏さんが)の殺害を目論んだ。ウソ泣きによって主人公・広能昌三(故・菅原文太さん)をヒットマン役に志願させると、頭を深々と下げた。

「昌三、ワシゃぁ生涯忘れん…その代わり、お前が無期か20年くらいの刑で帰ってこれたら、ワシの全財産をおまえにくれちゃる」(山守)

 広能は約束通り土居を殺害し、刑務所に入った。だが、刑期を終えて出所しても山守が財産を譲ることはなかった。

 頼朝は頼朝軍の武士たちの懐柔のため、芝居もした。第8話。戦の疲れで不満が溜まっていた武士たちの酒盛りに混じった。本当は身分の低い武士たちと同席するのは嫌だったものの、一行の前に現れると「皆、やっておるかな?」と笑顔を振りまいた。

 芝居なら山守も負けてはいない。第3作「代理戦争」で子分たちに抗争を命じたが、渋られたので、拗ねた。

「おまえらがそがいにやる気がない言うなら、それでええよ。ワシ1人でもやるけん」(山守)

 無論、そんな気は毛頭ない。

どちらも「恩知らず」

 頼朝も山守も恩人であろうが平気で殺す。頼朝は援軍になってくれた大豪族・上総広常(佐藤浩市)を第15話で謀殺した。武士たちに謀反の動きがあったため、見せしめだった。

「ワシに逆らう者は何人たりとも許さん。肝に銘じよ!」(頼朝)

 山守もあきれるほど恩知らず。第1作。自分の命を救ってくれたので、「今後ともワシのねき(近く)におって力になっといてくれのぉ」と懇願した若杉寛(故・梅宮辰夫さん)が、殺人を犯し指名手配になると、潜伏場所を警察に密告する。もう用済みだったのだ。若杉は刑事たちと撃ち合いになり、射殺された。

 また、2人とも冷酷な策略家。頼朝は第20話で平家を滅亡させた立役者である弟の源義経(菅田将暉)を自害に追い込んだ。小栗旬(39)演じる主人公・北条義時を使って藤原泰衡(山本浩司)を騙し、義経を襲撃させた。

「泰衡に取り入り、焚き付けて、九郎(義経)を討たせよ」(頼朝)

 山守の場合、組の資金源確保のために尽力し、自分で組織のナンバー2である若頭に起用した坂井鉄也(故・松方弘樹さん)を、子分を使って殺害した。第1作だった。坂井が組織内で台頭したからである。頼朝と義経の関係に似た側面がある。

 そのくせ山守は坂井の葬儀ではチャッカリ喪主に収まった。大切な子分を殺された悲劇の組長を装った。自分で義経を死なせておきながら、その仇討ちとして泰衡を滅ぼした頼朝のようだった。

 頼朝は自分の甥にあたる静御前(石橋静河)の男児、木曽義仲(青木崇高)、義高(市川染五郎)、一条忠頼(前原滉)、伊東祐親(浅野和之)らを次々と殺害した。いずれも頼朝にとって好ましくない人物だった。頼朝の一人勝ちだ。まだ殺される。

 一方、山守が原因で死んだ山守組関係者は第1作だけで6人。けれど山守は痛くもかゆくもなく、それどころか競輪場の役員になるなど権力と資力を手に入れた。

 これでは2人の配下の人間たちが哀れだが、武士たちと子分たちはともにしたたかなのである。どちらも頼朝、山守への忠誠心がない。

 北条宗時(片岡愛之助)が第5話で義時に語った言葉が象徴的だった。

「オレはな、平家とか源氏とか、どーでもいいんだ…板東武者の世をつくる。そして、そのテッペンに北条が立つ。そのためには源氏の力がいるんだ」(宗時)

 その前後、北条時政(坂東彌十郎)も「アイツ(頼朝)は大将の器じゃねーぞ」と義時に漏らしている。

 山守の子分も一緒。第1作で坂井は山守にこう言い放った。

「あんたぁ、最初からワシらが担いどる神輿じゃないの…神輿が勝手に歩ける言うんなら歩いてみないや、おぉ!」(坂井)

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