ロシアが「安全操業協定」を停止 根室の漁業関係者は「経済制裁の仕返しか。町は今、疑心暗鬼になっている」

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

根室の町は疑心暗鬼

 先日、根室市の水産関係者に経済制裁の影響について電話取材した際には、多くを語ってくれていた。さっそく原稿に書こうとしたら土壇場で匿名を求められた。「どうなっていくのかわからない、だからみんな息をひそめて様子見なんですよ。ロシアのウクライナ侵攻の後、根室漁協も何もコメントしないでしょ」などと吐露していた。

 今回の安全操業の停止について、根室市の「飯作水産」の飯作鶴幸社長(79)に尋ねた。

「うちは安全操業の枠内の漁業はしていないが、落石漁協さんとかは大変だ。安全操業協定があるといっても、2年ほど前にも拿捕されたりしていて、まったく安全とは言えなかった面もある。今回、ロシアへの経済制裁への仕返しのような形だが、こうなると国の交渉次第であり、漁業者は静観することしかできない。私なんかが他の漁業のことにコメントしたりしてもすべて、ひもつきでみんな連関してきてしまう。根室の人たちはロシアとは背中合わせで生計を立ててきているが、悪いことになると誰が何言ったからだとか、根室の町は今、疑心暗鬼になっているんです。今は言ったことがすぐにロシアにも伝わるからね」

 日本の経済制裁でロシアは日本を「非友好国」と断じ、北方領土交渉の中断を言ってきている。さらに険悪な事態になっている。

「国境のマチ」根室市(「」を付けるのは北方領土を「固有の領土」とする日本からすれば根室市は国境の町ではないため)では今、ソ連警備艇の臨検、拿捕、銃撃。さらには冷戦時代に暗躍した、ロシアと通じ日本の情報を渡してカニなどを取らせてもらう「レポ船」の再来、そして彼らを公安当局が追い回すような時代に戻るかもしれない、といった、えもいわれぬ緊張感が覆ってきているようだ。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。