年金問題「少子高齢化で破綻」は間違い? 支給額が50年前より増えている理由とは

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 少子高齢化の中「いつ破綻するかわからない」というイメージが強い年金制度。自分たちはもらえないのではないかと若い世代ほど不安になりがちだ。でも待ってほしい。その印象は本当に正しいのか。誤解されがちな年金の本質を人気経済コラムニスト・大江英樹氏が解説する。

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 年金、特に公的年金についてはいつの時代も批判的な声が多く、あまり評判が良くないようです。しかもこれは若い世代から、既に年金を受け取り始めている世代に至るまで、共通の傾向なのです。もちろんいずれの世代にとっても将来のことはわかりませんから、「不確実性」という観点で年金に不安を抱くというのはわからないでもありません。

 しかしながら、もう少し詳しく観察をしてみると漠然とした不安だけではなく、年金制度について多くの人が誤解をしている、というところにその原因があるのではないかという気がしています。

 以前、大ベストセラーになった『FACTFULNESS』という本があります。世界で多くの人が思い込んでいることについて、実際にファクトを調べてみると、人々が持っている印象と事実が全く異なるという非常に面白い本でした。

 私はその本を読んで「年金にまつわる思い込みと誤解」も全く同じ構造だと感じ、そこで「年金版ファクトフルネス」を書きたいと思ったのです。それが昨年書いた『知らないと損する年金の真実』(ワニブックスPLUS新書)という本です。詳細について全てここで述べることはできませんが、誰もが勘違いしている代表的な誤解を三つ挙げたいと思います。

 まず、公的年金制度という仕組みの本質に関わることなのですが、ひと言で言うと年金の本質は「貯蓄」ではなく、「保険」だということです。実はこれが年金に対する最も大きな誤解で、多くの人は年金を「将来に備える貯蓄」だと思っています。でもそうではありません。この誤解が解けたら年金に対する誤解の大半はなくなると言ってもいいでしょう。

 ではそもそも貯蓄と保険はどう違うのでしょう。「貯蓄」は将来の楽しみとかお金が必要になることに備えて自分で蓄えるものです。

 これに対して「保険」は将来起こり得る大きな不幸やリスクに対してみんなで備えるものです。もう少し詳しく言えば、少々お金が必要なことであれば自分の貯蓄でまかなえますが、一家の働き手が亡くなってしまうとか、家を建てた途端、火事に遭うとか、さらには自動車事故で人を死亡させてしまう、といった大きな不幸やアクシデントに対しては、自分一人の力ではどうにもならないことが多いものです。だからこそ多くの人がお金を出し合って、そんな大きな不幸に遭ってしまった人にそのお金を回してあげるのが保険の役割なのです。

 では年金はどういう不幸に備える保険なのでしょう。実は年金という保険には大きく分けて三つの不幸に備える機能があります。

 まず年を取って働けなくなった時の生活費をまかなうということです。生涯現役で働くなら年金は不要ですが、誰しも一定の年齢になると働けなくなります。

 そこで働けなくなった後の生活をまかなうのが年金の役割です。年金は死ぬまで支給されますから、これは終身にわたって所得が保障される保険と言っていいでしょう。この機能を「老齢年金」と言います。

 さらに病気や怪我で自分が障害者になってしまった場合は「障害年金」という機能があり、これも終身で支給されます。

 そして一家を支える働き手である自分が亡くなった場合に残された家族が生活に困らないようにする機能が「遺族年金」です。もちろん大した病気や怪我もなく、天寿を全うすれば自分自身は障害年金も遺族年金ももらえませんが、それは逆に言えば幸せな人生だったということになります。

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