ウクライナ危機長期化 いま西側諸国は主戦派と和平派、どちらの声が多いのか

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 英誌エコノミスト(5月27日号)は「ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、西側諸国は『交渉を通じてできるだけ早く戦争を終結させるべきだ』とする和平派と『ロシアに大きな代償を払わせるために戦争を続けるべきだ』とする主戦派に分かれ始めている」と報じた。同誌によれば、和平派はドイツ、フランス、イタリアなどの欧州連合(EU)の代表的な加盟国。ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領は5月28日、ロシアのプーチン大統領との電話会談を行い、戦争の早期終結を改めて要求した。

 和平派の動きに反対する主戦派の代表格は英国だ。ロシアに対する敵愾心が強いとされるポーランドやバルト諸国も含まれている。英国は侵攻以降、米国に次ぐ規模の武器支援を行っている。「モルドバやジョージアにも武器を送るべきだ」と主張している。

 ジョンソン英首相は5月27日、ロシアとの戦闘を続けるウクライナに多連装ロケットシステム(MLRS)など、より攻撃力の高い武器を供与するよう強く呼びかけている。遠距離の標的を攻撃できる武器を求めるウクライナ指導部に応じた形だ。

「ウクライナの要求に応じれば、北大西洋条約機構(NATO)がロシアと直接対決する事態に近づく恐れがある」として慎重な意見が上がっていることに対してジョンソン氏は「極めて残虐なロシアの砲撃からウクライナを防衛できる」との自説を繰り返している。

 ウクライナでの紛争が4ヶ月目に突入し、ロシアとの和平協議再開の声が高まっているが、ジョンソン氏はプーチン大統領と交渉することについて「脚を噛みちぎっている最中のワニ(プーチン氏)とは対応できない。この男は全く信用できない」と一蹴している。

意外にも「あいまい」な米国

 ウクライナに最も積極的に武器支援を行っているのは米国だが、エコノミストは意外にも「立場はあいまいだ」と評価している。

 バイデン米政権が英国と同様にロシアに対して強硬な姿勢をとり続けているが、エコノミストはメデイアの論調の変化や識者などの発言に注目している。

 5月19日付ニューヨーク・タイムズは社説で「ロシアを敗北に追い込むのは非現実的であり、危険でさえある」とこれまでの主張を大きく転換させている。

 2003年のイラク侵攻を全面的に支持したことで知られる外交タカ派のヘリテージ財団は400億ドルに上るウクライナへの追加支援策を批判し、「税金は米国の国民のために優先的に投入されるべきである」との声明を出している。

 米国でも戦争の早期終結を支持する意見が徐々に高まっているのだ。

 ロシアによるウクライナ侵攻以来、ジョンソン首相のウクライナへの「肩入れ」は突出している感が強いが、米メデイアは同盟国のリーダーを批判する記事も書いている。

 5月19日付ブルームバーグは「ジョンソン首相はウクライナ危機を利用して自らの政治的求心力を得ようとしている」と報じた。

 ジョンソン氏は今年1月下旬に「新型コロナの感染拡大防止のために実施された全国的なロックダウンの最中に首相官邸でパーティーを行った」というスキャンダルが明らかになり、大きなダメージを受けた。同紙は「高まる辞任要求に抗う形で『戦時の宰相』を演じ、危機を逃れようとしてきた」と指摘した上で「問題はジョンソン氏が英国が参加していない戦争を煽っていることだ。ウクライナは『このような友人』に気をつけよう」と呼びかけている。

 ウクライナ紛争の大きな特徴は、西側諸国の情報戦に対しロシアが防戦一方になっていることだ。ロシア軍に対するネガティブ報道が連日のように報じられる(「士気が低い」「作戦が稚拙」「武器が不足」など)が、ウクライナ軍にとって都合の悪い情報が流れることは皆無に等しい。このため「ウクライナ軍がロシア軍を追い返す」との期待が一時は高まっていたが、このところウクライナ東部でロシア軍優位の状況が明らかになりつつある。

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