息子は職員から“虐待”を受け、家に帰りたいと懇願する手紙も…児童相談所に自ら助けを求めた40代シングルマザーの後悔

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「施設内虐待にあたると…」

 親からの暴力や、育児放棄による虐待に直面した子どもの安全を確保するため、児童相談所(児相)が行う「一時保護」。親元から引き離された子どもたちは、児相や一時保護の委託先である施設などで暮らしている。だが、ここで紹介するのは母親自身が子どもの一時保護を求めたケース。その後、母子は児相とのトラブルに巻き込まれ、いまだに生き別れ状態にあるのだ――。【奥山一朗/ライター】

 2021年10月15日、一時保護の決定を受けて、母子2人暮らしだった家庭から息子が姿を消して10カ月が過ぎていた。40代の母親・沙織さん(仮名)は、呼びだされた東京・港区児相の2階面談室で、児童福祉司の1人から、思いもよらない言葉を告げられた。

「このことは、施設内虐待にあたると考えています」

 Aさんの中学生の長男・徹くん(仮名)が、一時保護先の児童養護施設で、職員から虐待を受けたというのである。

「息子は食事のとき、おかずの魚料理を自分でよそおうとして、20代の男性職員から“なにやってんだ、お前”と手をたたかれた、と。でも、自分で配膳することは、この施設の本来のルールでした。息子は理不尽に暴力をふるわれ、“怖かった”と言っていたそうです……。自分から児相に助けを求めたことを心から後悔しています」(沙織さん)

 児相による一時保護をきっかけに、沙織さん母子が直面した苦しみは、こうした“虐待”にとどまらない。

母親自身が児相に助けを求めた

 コンサルティング業を営む沙織さんは、都心のマンションに住み、シングルマザーとして安定した経済基盤を築いている。その生活が転機を迎えたのは2020年3月のこと。新型コロナウイルスの流行で、海外の全寮制の小学校に通わせていた徹くんが帰国し、仕事に加え、育児の負担ものしかかるようになった。

「当時は、顧客と午前3時頃まで打ち合わせをして帰宅し、ほとんど寝る間もなく息子を起こして朝食を作り、小学校に送りだすという生活。夜、息子が1人になるときなどは、シッターや宿泊できる託児施設なども利用しました。そんななか、私自身が不眠に悩まされ、何度もめまいに襲われるように……。心肺停止状態になり、救急搬送されたこともありました」(沙織さん)

 一方、この時期、徹くんは小学6年生。1人で過ごす時間が長くなると、ネットゲームにのめり込むようになった。たびたび勉強の話題を持ちだす母親のことを煩わしく感じるようになり、ときには口論になったという。

 徹くんが一時保護されることになるのは、12月8日夜の出来事がきっかけだった。このときも2人は口論となり、機嫌を損ねた徹くんは午前2時頃までゲームをしていた。

「翌朝、夜ふかしした息子は学校に遅刻した。私の方も朝、息子を起こす気力が湧かなかった。こんな状態では息子も私も共倒れになってしまうと思い、私が児相に助けを求めたんです」(同前)

 これまでの報道などから、一般に、虐待を受けている子どもを親元から強制的に引き離す措置として知られる一時保護だが、沙織さんは自らの現状と息子の将来を思い、自主的に一時保護を選択したのである。

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