〈ちむどんどん〉東京編もパッとせず…賢秀は愛されないただのダメ男ではないか
「モネ」以降、”呪縛”から解き放たれた
「時報代わり」とも言われていた朝ドラが目に見えて変わったのは前々作の「おかえりモネ」(2021年度前期)から。内容の自由度が高まった。
「モネ」の放送開始直後の昨年5月、NHK副会長で放送総局長の正籬聡氏が会見で、「最近はタイムシフトでご覧になられる方、見逃し配信で見ていただく方も増えている」と語り、リアルタイムで視聴してもらうことに拘らないことを表明した。同時期、現場のディレクターも「リアルタイム視聴でなくても構わない」と言い始めた。
制作者がリアルタイムで観てもらうことを意識しないで済むようになると、朝ドラは大きく変わる。それまでは長らく世帯視聴率で20%が合格ラインとされていたから、どうしても「時報代わり組」も「ながら視聴組」も取り込まなくてはならなかった。分かりやすいストーリーが求められた。
リアルタイム視聴の呪縛から解き放たれた「おかえりモネ」はやや難解な作品にすることが可能になった。説明調のナレーションは極端に少なく、観る側に表情やセリフの意味を考えさせるシーンが多かった。
前作「カムカムエヴリバディ」(2021年度後期)がもっと複雑だったのはご記憶の通り。いたるところに先々のストーリーにつながる布石が打たれていたから、「時報代わり」「ながら視聴」はとても無理だった。
この2つの朝ドラは作風こそ違うが、「斬新」という共通点があった。「ちむどんどん」も朝ドラに新しい風を吹き込みたいのだろう。
その点、賢秀という設定もある種、斬新ではある。これまでの朝ドラの主要登場人物はほぼ例外なく好人物で、賢秀ほどのダメ男はいなかったのだから。ただし、観ていて気分の良い新しさではない。
制作者側がその時期をいつにするつもりなのかは分からないが、賢秀は立ち直るに違いない。そうしないと「お母ちゃんとみんな、頼むよ」と賢秀に言い残して逝った父・賢三(大森南朋、50)が浮かばれない。観る側も後味があまりに悪い。だが、遅すぎたかも知れない。これから観る側の共感を得るのは難しいはずだ。
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