効率性最優先の時代は終わった? 求められる新たな国家像とは

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「コモン・センス」

 そして、もうひとつ重要なのが「コモン・センス」です。これは共通感覚・常識とも訳されますが、どの地域や国にも歴史をたたえた生活スタイルや死者の葬送の行い方があり、それを支えているのは「時間」です。さまざまな時の試練を乗り越えてきた先人たちの叡智がそこには集積しています。この時間、歴史の集積であるコモン・センスを無視して、刹那的な有用性、合理性、効率性を追い求めてきた果てに、私たちが現在にたどり着いたことはこれまで見てきた通りです。

「尊厳」と「コモン・センス」。いずれも抽象的な概念に過ぎません。しかし抽象論を語らずして、個別具体案件の優先順位を決めることはできません。したがって、国家像・国家観を持たなければ、私たちの社会はまた、COCOAのような付け焼刃の対応を繰り返すことになるでしょう。

 もはや、戦後アイデンティティーとかつての成功体験をひきずったままの、効率性一本槍の社会は限界に達しています。折しも、コロナ禍に続いてウクライナで戦争が勃発しました。この不確実な時代を、新たな国家像の構築なくして生き抜いていくのが困難であることは論をまたないように思えるのです。

先崎彰容(せんざきあきなか)
日本大学教授。1975年生まれ。東京大学文学部倫理学科卒業。東北大学大学院で日本思想史を専攻。フランス社会科学高等研究院に留学。『ナショナリズムの復権』『違和感の正体』『国家の尊厳』等の著書がある。

週刊新潮 2022年5月19日号掲載

特別読物「シリーズ『ポスト・コロナ』論 顕在化した『社会の脆弱性』 日本に急務は『新・国家像』構築」より

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