成長できる日本の中小企業をどう支援していくか――望月晴文(東京中小企業投資育成株式会社社長)【佐藤優の頂上対決】

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生き残る中小企業とは

佐藤 その自動車産業は、EV化によって、内燃機関を作る中小企業を中心に多大な影響を受けるといわれていますね。

望月 確かに、自動車産業関連の中小企業が一番幅広く関わっているのはエンジン、内燃機関です。そこが一番難しく、だから日本の強みでもある。それがなくなれば、特に切削加工をやっている人たちなどが大変なことになるといわれます。でもそんなことで、日本の中小企業はへこたれないですよ。その人たちも、最初から自動車産業の下請けをやっていたわけではない。

佐藤 そうなのですか。

望月 その前は、電機業界の下請けだった会社が多いんですよ。かつて日本の家電メーカーは国内にたくさん工場を持っていました。それが円高などで製造拠点を賃金の安い海外に移していった。その時に付いて行った会社もありますが、残った会社もたくさんある。そこで自動車産業に入っていったんですね。

佐藤 次の事業にうまく転換できた。

望月 自身で努力して新しい製品を作ることに成功した。だから上が変わっても、そこで終わりにならないのが日本の中小企業なんですよ。展開力を持っている。私は時間さえあれば、そして方向性さえ決まれば、うまく対応できると思います。

佐藤 なるほど、その時間の分だけサポートすればいいわけですね。

望月 例を挙げると、オイレス工業という会社があります。いまは上場していますが、ベアリングやビルの免震装置の会社です。免震装置は滑る樹脂を利用したもので、阪神大震災後はどこも免震強化の声が高まって、特需があった。

佐藤 国土強靭化基本計画も進行中です。

望月 ただそれがいつまでも続くわけじゃない。それで彼らが何を考えたかというと、自動車向けベアリング部門の強化です。あれも滑ることが重要ですから。

佐藤 「よく滑る」という機能から発想し、展開した。

望月 何年もかけて開発し、自動車メーカーに持って行って、そちらでも何年もかけて検査してようやく採用された。当時の自動車の課題は軽量化だったんですよ。

佐藤 金属より樹脂の方が断然軽い。

望月 車には無数のベアリングが使われています。もちろん全部は置き換えられませんが、自動車ベアリングでは何十カ所で採用されました。

佐藤 それなら他からも引き合いがきますね。

望月 ええ、それでドイツに売りこみに行くんですよ。実は2年前に視察に行ってきたのですが、同社はドイツ国境に近いチェコに工場を作った。そこからだと、フォルクスワーゲンの工場があるベルリン近郊と、BMWやベンツの工場があるミュンヘン近郊と等距離なんですね。

佐藤 それはいい場所に目をつけましたね。しかもチェコは労働力の質が高いし、ユーロを使っていませんから賃金が安い。

望月 投資先の経営者たちは、自分たちの技術が何に役立つかを常に考えています。それも365日、24時間です。例えば彼らとゴルフをするじゃないですか。大企業のサラリーマン社長なら息抜きでリフレッシュする時間かもしれませんが、中小企業の経営者はそうではない。雑談の中でも、何かヒントになるような話が含まれていると、パッと顔色が変わって、すごく真剣に聞き返してくる。

佐藤 そこは政治家と同じですね。

望月 なるほど、そうかもしれない。だいたい中小企業にとって一番のリスクは、特定の一社に依存度が高くなりすぎることなんです。そこがいきなり海外に工場を建てることになれば、明日から発注がないという事態になることがある。上の会社が成長してどんどん発注がくるのに応えていると、そのウエイトが高まりますが、その時が一番のリスクなんです。そこをこらえて半分で抑える、あとはよそにお願いする。それがやれないと、生き残れないんです。

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