英国防省の分析で判明「ロシア軍は東部戦線で大惨敗」“投入軍3分の1を失う”の重要な意味

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戦場のリアル

 戦えない兵士は2名。11名のうち2名が戦闘不能だから、損耗率は約18%となる。

「ところが、この18%は、戦場の現実とは乖離しています。いわゆる“机上の計算”に過ぎないのです。11名の分隊で2名が戦闘不能になっただけでも、大変な事態になってしまいます」(同・軍事ジャーナリスト)

 実際はどうなのか、シミュレーションを続けよう。死傷者が出たことから、分隊長はメディバック(緊急医療搬送)を要請する。

「戦死者を後送するためには担架要員が2名、重傷者の後送にも最低1名は必要です。死傷者は2名ですが、これに3名が加わり、戦闘不能な兵員は5名になってしまいます。残りは6名ですから、実際の損耗率は約45%だとも考えられるのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 さらに1名の「歩行可能な負傷者」だが、いくら歩けるとはいえ、戦闘で充分に働けない可能性は高い。分隊長が後送を命じるケースは珍しくなく、こうなると11名の分隊で6名の戦闘不能者が出ることになってしまう。

「誰が負傷したかということも重要です。機関銃手や対戦車ミサイル射手が負傷した場合、武器を他の兵士が持たなければなりません。スムーズに3名のメディバックが完了したとしても、11名で搬送していた装備や荷物を8名で運ぶ必要があります。武器や予備弾薬だけでなく、食料や水なども重要です。その重さが8名にのしかかります。数名の脱落でも、分隊の活動能力を著しく減少させることが分かります」(同・軍事ジャーナリスト)

進軍不能なロシア軍

 たった1人の重傷者が出ただけで、19人の戦死者につながった──この実話を映画化したのが、2001年に公開された「ブラックホークダウン」[監督・リドリー・スコット(84):コロンビアピクチャーズ]だ。

 1993年にソマリア内戦で起きた「モガディシュの戦闘」の詳細を再現した。装備や練度で優位に立つアメリカ軍が、たった1人の重傷者が出たことで作戦が狂い、民兵組織に苦戦する様子がリアルに描かれている。

 たった1人の脱落でも、実際の戦闘では大きな影響が出る。まして英国防省の「損耗率は約30%」が事実だとすると、軍としては行動不能になった可能性が浮上してくるという。

「最悪の場合、戦死者の遺体は現地に置き去りにするにせよ、重軽傷者は後方に運ぶ必要があります。破壊された戦車を補充することも大事です。米軍の場合、分隊は必ず2個の班を単位として動く決まりになっています。1班が行動不能になると、もう1班の5名は負傷者ゼロでも、戦闘不能と見なされます。ロシア軍も、とても前に進める状況にはないでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

 攻撃側か守備側かという問題もある。玉砕覚悟で陣地に立て籠もっている部隊なら、3割が失われても「まだ7割ある」と言える。

「しかしロシア軍は攻撃側です。ただでさえ攻撃側は、守備側の3倍の兵力が必要だと言われています。少なくとも前線の兵士や指揮官は、ウクライナ軍の攻撃に恐怖を感じているでしょう。精神的にも進軍することは難しい可能性があります。少なくとも日中はじっとしていたいと考えるはずです」(同・軍事ジャーナリスト)

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