戦後、徴用工の未払い賃金を回収した「朝連」 労働者に返還されず政治資金に転用?

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朝鮮人労務者の未払金要求に関する国側の資料

 この資料は全県を網羅しておらず、内訳にもばらつきがあるため、全体を示すものではない。おそらくは、調査に応じた企業の申告に基づいて作成されたものであろう。

『朝総連研究』(高麗大学校亜細亜問題研究所)で、朝連の資金源を分析した田駿はこう書いている。

「朝連は日本当局に対し、または日本経営主に対して帰国者に対する退職金、旅費、慰労金等の金品を要求した。(中略)その実数を知ることはできない。ただ証拠として残っているものとして、一九四六年三月末まで朝連中央労働部長名義となった各処に対する請求額は四千三百六十六万円であり、その中で受領されたものは三百五十九万円であった」

 金額はこれよりかなり少ないが、労働省の「調査集計」はまさに、田駿が書いた朝鮮人労務者の未払金要求に関する国側の資料なのである。

朝連の要求

 実は朝連が労働部長名で各企業に宛てて、未払い賃金や債権の回収を要求した文書の雛形が残っている。大阪市中之島中央公会堂で行われた朝連の第3回全国大会(1946年10月)で、韓徳銖(後の朝鮮総聯初代議長)が行った発表を、『朝鮮人強制連行の記録』の著者・朴慶植がまとめた「総務部経過報告」の中にある。

 それは「強制労働者、使用主に対する覚書」と題され、このように始まる。

「日本帝国主義侵略戦争の全期間中を通じて、わが朝鮮民衆に犠牲を強要する惨虐な搾取的労務雇傭条件によって奴隷的苦境に呻吟した朝鮮労働者は栄光なる聯合国の勝利によって祖国再建と、侵略者日本帝国主義の壊滅によって屈辱的奴隷状態から解放され、民族的国際的人格として自由平等の権利を奪還したのである」

 戦後の朝鮮人労働者をこのように位置付けた上で、

「貴社が使役した朝鮮労働者に関してこの新事態の観点で従来の待遇と将来の処遇方法に対して在日本朝鮮人の一切の利益を代表とする本聯盟は深甚なる関心を持ってきた。元来、わが同胞労働者の過半数が素朴で無知文盲であるのを奇貨として劣悪な労働条件の強制と給与金品の不正横領によって物質的にはもちろん精神的に心身を侵蝕し、また敗戦後、窮迫した飢寒状態に対して何等誠意ある対策が無いだけでなく日本政府の欺瞞的政策だがその対策指示までだと、労働者の無知を利用して責任回避を企図する非人道的暴虐行為は戦争犯罪的ミリタリズムの厳然とした実例でなく何であろう。(略)本聯盟は貴社のこうした罪悪的暴状と背徳的行為の責任を徹底的に追究し“ポツダム”宣言によって保障された朝鮮人の福利と権威を擁護する栄光ある権利を再確認するものである。ここに本聯盟は貴社に対して急速に別記条件に対する回答を要求すると同時に即時誠意ある履行を要求するものである。この要求条件を完全に履行し、貴社が人道的、社会的、道徳的信義を天下に表明することを確信するのである」

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