徴用工で問題となった「朝鮮人班長」による着服 賃金自体は当時としては高額

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日本政府の方針は

 その結果、秋田県知事に、会社から1人当たり千円、衣類一式(毛布、下着、シャツ、上下の服、靴、オーバー)を出すよう命令が下ったのだ。

 こうした朝鮮人班長による着服が常態化していれば、「未払い賃金」の一因にはなったであろう。

 日本政府は、冒頭にも紹介した「朝鮮人集団移入労務者等ノ緊急措置ニ関スル件」で次のような方針を通達していた。

「二.帰鮮せしむる迄は、現在の事業主をして引続き雇傭せしめ置き、給与は概ね従来通りと為すべきも、八月十五日以降差当り左の如く措置すること。

(一)従来通り就業する者に付ては事業主をして

(1)賃金に付ては、賃金規則により従前通り給与し得る如く計算を行はしめ置くこと

(2)賃金の支給に付ては、当座の小遣として必要なる程度の現金を本人に手渡し、残金は各人名儀の貯金となし、事業主に於て保管し置くこと

(3)右措置は、鮮内との通信杜絶に依る已むを得ざるものにして、将来帰鮮の際、貯金は必ず本人に渡す旨の周知徹底を図ること

 (二) 休廃止工場・事業場及操業工場・事業場の移入朝鮮人労務者にして、就業せざるに至りたるものに対しては、事業主は差当り標準報酬日額の六割以上の休業手当を支給し、宿舎食糧等に付、従来通りの取扱をなすこと。

(今後の状勢に依り、右休業手当の支給に要する費用に就ては、国家補償の途を講ずることあるべきこと)」

未払い賃金はどこへ?

 小遣い程度の現金を本人に手渡し、残りは本人名義の貯金を事業主が保管、帰国の際に金は必ず本人に渡す。しかも休業補償をするともある、かなり手厚い措置である。

 しかしながら、戦後の混乱期である。貯金が本人に手渡されたのかどうかはわからないし、急いで帰国した者には通帳が渡らなかったケースもあるだろう。また契約途中で逃亡し、居所のわからない者もいただろうし、空襲で亡くなった人もいるだろう。そうした「未払い賃金」は確かにある。

 ではそれはそのままなおざりにされたのか。否、そうではなかった。未払い賃金は企業から公的機関などに供託されたのである。そして、その供託先のリストがあったのだ。

(敬称略)

近現代史検証研究会 東郷一馬

週刊新潮 2022年4月28日号掲載

短期集中連載「党史には出てこない不都合な真実 『共産党』再建資金に『朝鮮人徴用工』の未払い賃金」より

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