〈鎌倉殿の13人〉天才で傲慢な“モンスター”「菅田義経」の斬新さ

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 NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、これまでほとんど注目されたことがないキャラクターに光があてられている。上総介広常(佐藤浩市)、畠山重忠(中川大志)、木曽義仲(青木崇高)などなど。その一方で、この時代を描く物語で必ずと言っていいほど主役クラスに取り上げられる、いわば「慣れ親しんだ」キャラが、まったく新しい相貌で登場し、視聴者の度肝を抜いている。その代表例が、菅田将暉演じる源義経だろう。【安田清人/歴史書籍編集者】

猟師を射殺

 何しろ、菅田義経はぶっ飛んでいる。

 人口に膾炙した九郎義経のパブリック・イメージといえば、紅顔の美少年で、戦の天才、そして純真無垢で世知に疎いといったところだろうか。菅田義経はそういうパブリック・イメージを巧妙にとどめながらも、天才がもつ厄介な側面――凡人の気持ちがわからない独善性、はた迷惑なほどの全能感、目的のためなら手段を選ばない傲岸不遜といったネガティブな要素を、真向正面から描いているのだ。

 菅田義経は、猟師と獲物の取り合いになると、弓の腕前で勝負を決めようと持ち掛けながら、その猟師を射殺してしまう。なんとも卑怯千万。しかし、兄の頼朝のもとに駆け付けて平家を倒すという人生唯一にして最大の目標のまえでは、そのような騙し討ちなど取るに足らない挿話に過ぎないのだろう。義経はあくまでも明るく快活に、平然と猟師を殺害した。

 戦場で並みいる歴戦の武将を前に、堂々と、そして諸将を睥睨するように戦を語る義経。

「俺に兵500を貸してくれ。3日で城を落として見せる」

 あまりに傲慢な言葉に周囲の武将は困り顔。戦の経験があるのかと聞かれた義経は言下に「ない!」と叫ぶ。経験もないくせに大した自信じゃないか、との皮肉には「経験もないのに自信もなければ何もできない、違うか?」と開き直りともいえる啖呵で切り返す。

義経を前に武将たちは……

 戦で手柄をたてて頼朝に褒められたいのに、チャンスに恵まれない義経。そんなとき、どう見ても優秀なもう1人の兄が登場する。肉親の情もへったくれもない。義経は巧妙にこの兄をけしかけて死地に追いやり、自分のポジションを確保する。

 福原の平家を攻撃する軍議の場で、並み居る諸将を罵倒し、彼らの策を全否定する義経。自らの策に怖気づく諸将を「なんだなんだ? 坂東武者は口だけか!」と挑発。しかし、その策は確かに見事なものだった。梶原景時は「戦神……八幡大菩薩の化身のようだ」とため息をつく。武将たちは、義経の人と人とも思わぬ傲慢な振る舞いやセオリーを無視したやり方、そして「騙し討ちのなにが悪い?」と公言するピカレスクヒーローぶりに反発を覚えながらも、「戦争」という現実に勝利するには、義経の「悪」に額ずくしかない。

 菅田義経は、天才の「明と暗」を描き込んだ結果、トンデモないモンスターに仕上がっているのだ。

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