戦勝記念演説で6回「ナチ」を連呼 プーチンの“微妙な胸の内”を防大名誉教授が読み解く

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スターリンへの“郷愁”

 ファシズムとコミュニズム(共産主義)は、独裁を前提とするという共通点がある。プーチンもヒトラーも、共に筋金入りの独裁者であることは論を俟たない。

「更にソ連の指導者、ヨシフ・スターリン(1878~1953)も独裁者でした。おまけにヒトラーとスターリンは1939年、独ソ不可侵条約で手を結んだことがあります。独ソ戦を予期していたが故の時間稼ぎという側面はありました。しかし、2人が独裁者だったことが、条約締結を後押しした面はあったと思います。同じ独裁者であるプーチン大統領が、2人を同じように尊敬しているとしても不思議はないでしょう」(同・佐瀨氏)

 本来なら、ロシア人にとってはスターリンも唾棄すべき人物だ。秘密警察を使って恐怖政治を敷き、大粛清の死者は800万人とも1000万人とも言われている。

 1956年にはソ連最高指導者、ニキータ・フルシチョフ(1894~1971)が「スターリン批判」を行い、過去の“悪行”を全て明らかにした。

 だが、それでも今のロシア人は、依然としてスターリンに対する“郷愁”のようなものを持っているという。

焦点は“反プーチン派”

「プーチン大統領はKGB(ソ連国家保安委員会)でキャリアをスタートさせました。たとえフルシチョフが否定しても、KGBはスターリン崇拝の総本家のようなところでした。ロシアの庶民にも、スターリンの統治下は、『東側諸国がソ連を中心に団結し、東西冷戦下でアメリカと互角に渡り合った』、強国の時代として記憶されているのです」(同・佐瀨氏)

 プーチン大統領がヒトラーを肯定的に捉えた発言は、さすがに1度もない。だが、スターリンについては、「大国ロシアの復活」を掲げ、むしろ積極的に「政治的威光」を活用してきた。

「今回の演説では、ナチズムを執拗に批判したことで、かえってプーチン大統領の並々ならぬ“ヒトラーへの憧れ”が浮かび上がった気がします。そして、ドイツに勝ったスターリンと自分を重ね合わせようともしていたのでしょう。ただ、その目論見は外れたように思います」(同・佐瀨氏)

“自信喪失”との印象さえ与えたプーチン大統領の演説では、ロシア国民の士気を鼓舞することはできなかったようなのだ。

「信用性が低いはずの世論調査でも、プーチン大統領の支持率が下がってきています。今後、関心を持つべきトピックの一つは、反プーチン勢力の動きでしょう。プーチン政権の基盤が揺らいできている。これを目の当たりにして、『チャンス到来』と勢いづく可能性はあります」(同・佐瀨氏)

クーデターの可能性

 佐瀨氏は「あのヒトラーでも、暗殺やクーデターの危機を何度も経験しました」と言う。

「未遂で終わるかもしれませんが、ロシアでプーチン政権を打倒しようとする動きが起きても、何の不思議もない状況だと思います」

註1:軍事パレードで見えたロシア軍の台所事情 規模は縮小、学生の参加 ウクライナ侵攻で多大な犠牲(東京新聞電子版・5月10日)

註2:文脈に応じて様々な解釈があるが、ここでは「親欧的勢力」の意味

デイリー新潮編集部

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