戦勝記念演説で6回「ナチ」を連呼 プーチンの“微妙な胸の内”を防大名誉教授が読み解く

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“皇帝”が軍に配慮!?

 佐瀨氏は「演説の内容だけでなく、式典の規模も縮小されたように感じました」とも言う。同じ見解を、東京新聞(電子版)も報じている(註1)。

《パレードに参加した軍人は昨年より1000人少ない1万1000人で、「ユナルミヤ」と呼ばれる軍事学校の少年少女や軍事アカデミーの学生も含まれていた。軍用車両も131台と戦勝75年の2年前の6割にとどまり、ロシア軍の苦しい台所事情が透けた》

「戦意を高揚させるような勇ましい演説ではなかった一方で、プーチン大統領は戦死者への追悼や負傷兵に対する支援については言及しました。“皇帝”と呼ばれている独裁者が軍に気を使っているようにも見え、興味深いものがありました」(同・佐瀨氏)

 これまで世界中のメディアが、「ロシアの諜報機関や軍内部では、少なからぬ関係者がウクライナ侵攻に反対していた」、「最前線の兵士は士気が非常に低い」と何度も報じてきた。

「今回の式典に奇妙な“自粛ムード”が漂ったのは、ひょっとするとロシア軍全体に厭戦気分が蔓延してきたのが原因かもしれません。それほど、プーチン大統領と軍が、軌を一にしていない印象を受けました」(同・佐瀨氏)

ヒトラーへの愛憎

“自粛ムード”の演説で連発されたのは、「ナチ」という単語だった。

 NHK NEWS WEBが5月9日に配信した「【演説全文】プーチン大統領 戦勝記念日で語ったことは」を使って数えてみると、「ナチ」は6回、言及されていた。

《われわれの責務は、ナチズムを倒し、世界規模の戦争の恐怖が繰り返されないよう、油断せず、あらゆる努力をするよう言い残した人たちの記憶を、大切にすることだ》

《アメリカとその取り巻きの息がかかったネオナチ、バンデラ主義者(註2)との衝突は避けられないと、あらゆることが示唆していた》

《ナチズムと軍国主義を打ち負かしたすべての人たちに敬意を表する》

「ナチス・ドイツに勝利した日を祝うわけですから、確かに『ナチ』を頻発しても不思議ではありません。ただ、ウクライナ侵攻を正当化する文脈でも使われていました。これに違和感を覚えた人もいたでしょう。私も首をひねっていたのですが、ひょっとするとプーチン大統領は、アドルフ・ヒトラー(1889~1945)に愛憎入り混じった、複雑な感情を持っているのではないでしょうか」(同・佐瀨氏)

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