ウクライナ戦争でコメ不足の危機 アジアで政情不安が起きるのも時間の問題か

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コメにも影響が…

 ウクライナ危機により、小麦やトウモロコシなどの主要穀物の価格が軒並み上昇する一方、コメの価格だけは直近1年で15%低下した。十分な生産量とコメの主要消費国の潤沢な備蓄のおかげで価格が抑えられてきたわけだが、その環境も激変しつつある。

 タイの今年1~2月のコメの輸出量は前年より3割も増加した。ロシアによるウクライナ侵攻で両国の小麦供給が大幅に減る中、代替穀物として需要が拡大しており、特に欧州、中東向けが好調だ。中国への輸出も急増している。

 世界のコメ市場の需給は急速に引き締まっており、価格に対する上昇圧力がかつてなく高まっている。

 世界第3位のコメ輸出であるタイでは今年も豊作が見込まれているが、前述した肥料コストの高騰が暗い影を投げかけている。

 肥料コストの高騰でコメの生産が大幅に減少するとの懸念が生じている(4月19日付ブルームバーグ)。

 価格が低く抑えられてきたことから、コメ農家は肥料コストの上昇分を転嫁しづらい。このことが災いして、肥料価格の上昇が招く収穫量の減少は、コメ農家で最も顕著にあらわれ、今後のコメ生産量が激減する可能性が指摘されている。

 国際稲作研究所(IRRI)は「農家が肥料の使用量を減らしていることから、次のシーズンにコメの収穫量が10%減少し、コメ3600万トン、5億人分相当の供給が失われる恐れがある」と予測している。この予測は極めて控えめなものであり、「ウクライナでの戦闘状態が続けば、その影響ははるかに深刻なものになるのが確実だ」という。

 肥料価格の上昇が続けば、中国、インド、バングラデシュ、インドネシア、ベトナムなどの主要生産国でコメの生産量が大幅に減少し、世界の人口の6割を占めるアジアは本格的な食糧危機に陥るのではないかとの不安が頭をよぎる。

 これまでのところ、ウクライナ危機の影響が比較的小さいアジア地域だが、主食であるコメの価格が高騰すれば、これまでとはまったく違う展開になる。

 中東やアフリカ地域と同様、アジアも家計支出の多くを食料品が占める低所得国が多く、コメ価格の高騰に起因する政情不安が起きるのは時間の問題なのかもしれない。

 日本を取り巻くアジアでこのような惨事が起こることを回避するためにも、ロシアとウクライナの間の停戦を一刻も早く実現すべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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