「ロシアを最も強く非難すべきは日本である」 石破茂元防衛大臣が見るウクライナ侵攻

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終戦後のソ連の振る舞い

 そもそもウクライナに対するロシアの軍事的侵略を、国連総会など広く国際社会において最も強く非難するべき立場にあるのは我が日本国です。

 昭和20年8月8日、日ソ中立条約を一方的に破棄して日本に宣戦布告、翌9日から満州において軍事作戦が開始され、これは日本のポツダム宣言受諾、降伏文書への調印意思の伝達、停戦命令と武装解除後も続き、樺太の戦いでは日本軍人・民間人2千人が死亡、8月20日には樺太から本土に疎開する女性や高齢者を多く含む人々を乗せた3隻の船がソ連潜水艦によって撃沈され、1708人が死亡しました(三船殉難事件)。

 また、戦後57万5千人がシベリアに抑留され、満足な食事も与えられず酷寒と過酷な労働で5万8千人が死亡しています(これは兵隊の家庭への帰還を保証したポツダム宣言に明らかに反するものです)。

 そして今日もなお北方四島は不法占拠されたままです。

 日ソ中立条約を一方的に破棄し、日本がポツダム宣言受諾の表明をした後も武力行使を続け、民間人を虐殺し、シベリアで強制労働に服させて多くの人を死に至らしめ、今なお領土を不法占拠している様(さま)は、プーチン大統領のロシアが今行っている行為と全く同じです。日本人はウクライナ国民と共にある、と言う時には、これを決して忘れてはなりません。

 ソ連の働いた国際法無視・残虐非道の行いは学校でもほとんど教えてきませんでしたし、敗戦から77年が経過して記憶もほとんど風化しつつありますが、我々は今回の侵略を機にこれを学び直さねばなりません。近・現代史を学ぶことの大切さは、アジア諸国との関係だけにいえることではないと痛切に思います。

 過去の歴史という点でいえば、今回の侵攻について、「似たようなことはアメリカなどもやっているではないか」という主張を目にすることもあります。駐日ロシア大使もそうした主張をしています。

 しかし、そうした比較論は、軍事侵攻の前ならばともかく、現時点では妥当しません。ロシアの行為は国際連合憲章2条4項の明白な違反であり、どのような理由があっても正当化はできません。今まさに、ウクライナで多くの市民が殺され、街が破壊されている。これを認める理由は何一つありません。

 それでも「いやイラク戦争が」等々、過去の歴史を持ち出すような論については、停戦合意の後に、同じ「過去の事案」として比較検証すべきものでしょう。

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