戦争で存在感を高める仮想通貨 ウクライナとロシアで意外な明暗

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仮想通貨先進国だったウクライナ

 運用に大量の電気を必要とする仮想通貨にはマイナスのイメージが先行しがちだが、ウクライナ危機でプラスの面にも注目が集まっている。

 ウクライナ政府は2月下旬にSNS上で「戦費調達のため、仮想通貨(ビットコイン、イーサリアム、テザー)の寄付を世界中から受け入れる」と投稿すると、1億ドル以上の仮想通貨による寄付が送られてきた(3月11日付フィナンシャル・タイムズ)。

 1億ドルあれば、数十万人の兵士を養える食料を入手することができるという。

 ロシアの侵攻でウクライナ国内の金融機能が麻痺する中、銀行を介さずインターネット上で取引できる仮想通貨が強みを発揮して、ウクライナ支援のための送金手段として利用されているのだ。

 ウクライナが仮想通貨利用の先進国だったことも幸いした。ウクライナは2020年に人口当たりの仮想通貨の利用レベルが世界トップだったとの推計がある。

 ウクライナ市民は慢性的なインフレに悩まされ、自己防衛手段として仮想通貨を購入するケースが多かった。電力構成の半分以上を原子力発電が占めるウクライナの電気料金は安いことから、大量の電気を必要とする仮想通貨のマイニング(採掘)がさかんに行われるようになっており、米ニューヨークタイムズは昨年11月「ウクライナは世界の仮想通貨の首都だ」と評していた。

 制裁により仮想通貨の利用が大幅に制限されるロシアを尻目に、ウクライナは仮想通貨の利便性を十分に享受できる状況にある。これにより戦況が大きく変化することはないが、戦争という有事で仮想通貨はその強みを発揮した形だ。

 前線の部隊に軍資金を送る手段としてかつては金(ゴールド)が利用されることが多かったが、現在の戦争では仮想通貨がその役割を果たしつつあると言っても過言ではない。

 効率的だが地政学リスクに脆弱な現在の金融システムを補完する手段として、仮想通貨は今後プレゼンスを高めていく可能性がある。

 いざという時の価値貯蔵手段として金(ゴールド)への期待が高まっているが、「戦争通貨」の要素を備えつつある仮想通貨は、今後デジタル・ゴールドとして認識されるかもしれない。暗号通貨で最大規模を誇るビットコインの時価総額はロシアのルーブルの時価総額を上回る規模にまで成長している。

 戦争が起こると予想もしない副産物が生まれるのが常だ。金融の分野で仮想通貨の普及が一気に進むことを想定しておくべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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