出処は不明… ロシアの「黒いプロパガンダ」を広めているのは誰か

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「ロシアのウクライナ侵攻は、許されざる行為である。が、しかし……」というトーンでこの問題を語る人がいる。「しかし」のあとに続くのは「ウクライナにも悪いところがある」の場合もあれば、「そんな建前は別として、まずは占領を受け入れよう」という場合もあるようだ。

 前者の代表例は鳩山由紀夫元首相や鈴木宗男参議院議員だろう。鳩山氏はウクライナ側の外交努力が足りないと批判し、鈴木氏はロシアへの経済制裁に疑問を呈している。

 SNS時代の情報戦という面も見せている今回の戦争に関する報道や言説を読むうえで、「プロパガンダ」の性質を知っておくべきだ、と指摘するのは公文書研究の第一人者である有馬哲夫氏だ。

 一口に「プロパガンダ」と言っても、「真贋」「白黒」とを分けて考える必要がある、というのだ。以下、有馬氏の特別寄稿である。

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「ウクライナのプロパガンダを信じるな」という人たち

 毎日ロシアのウクライナ侵略に関するニュースが飛び交っている。そのなかで、かつてないほどプロパガンダという言葉が使われている。

「情報が錯綜していて、どれが事実でどれがプロパガンダなのかわからない」「ウクライナ側だってプロパガンダをやっているのだからむやみに信じてはいけない」などというコメントがネット記事やSNSに見られる。

 だが、どうもプロパガンダというものがよく分かっていないのではないか、少なくとも、きちんと整理できていないのではないかと思われる。そこで、プロパガンダ・リテラシーの一環として、プロパガンダとは何か、どのような種類があるか、どのように機能するのかを述べてみたい。

 まず、プロパガンダの定義であるが、多くの定義を集約すると「意図をもって、特定の見方や考え方に誘導する宣伝のこと」に落ち着く。重要なのは、プロパガンダとは必ずしも嘘ではないということだ。ある事実を繰り返し強調して、ある見方や考え方に誘導するのもプロパガンダだ。だから、「ウクライナ側だってやっている」は正しい。

 ただし、ウクライナがプロパガンダにより目指しているのは、ロシアの侵略の不当性、ウクライナ側が防衛することの正当性、ロシア軍の虐殺の非人道性を訴えることなので、あまりプロパガンダだとは感じない。プロパガンダが導こうとしている見方と客観的事実の間にギャップがないからだ。

 これに対し、ロシア側のプロパガンダの目的は、戦争目的の正当性とウクライナ側のロシア系住民に対するジェノサイドの不当性を訴えること、ロシア軍のウクライナ住民に対する虐殺や暴行を否定することなどだ。これらはいずれも客観的事実に反している。ロシア側は侵攻前から今日に至るまでウクライナについてさまざまな主張をしているが、そのほとんどが嘘であることが西側のメディアや政府によって示されてきた。

 ロシア側のプロパガンダの送り手は、受け手を事実と反する見方や考え方へと誘導しようとしている。端的にいえば、嘘をついて騙そうとしている。私たちは、こういうものをプロパガンダだと強く感じる。

イーロン・マスクの貢献

 ここで問題なのは、私たちは、どうやって事実を知るのかということだ。私たちは実際の戦場にいくことができない。だから、誰かが、メディアを通じて送ってくる情報によってしか、事実を知ることができない。知ることができなければ無いのと同じだ。

 ここで情報戦が重要になってくる。つまり、自陣営にとって都合のいい情報をどれだけ多く国際社会に流通させることができるかだ。それに成功すれば、送り手は受け手に自分にとって都合のいい情報で「事実」を認定させることができる。送り手に都合が悪い事実がいくらあっても、それが受け手に伝わらなければ、なかったことになる。

 ウクライナ側が西側において情報戦で優位に立っているのは、情報発信においてロシアに優(まさ)っているからだ。ウクライナ政府の公式発表、ゼレンスキー大統領自身によるヴィデオメッセージ、ウクライナ国営テレビの報道に加えて、ウクライナの住民たちのスマホなどによる情報発信、そして、なんといっても圧倒的な量の西側メディアの特派員の報道。西側の人間はそれらから事実を認定する。

 これに対し、ロシア側は、西側においては、ロシア政府の声明や国営テレビ局の映像くらいしか情報発信できていない。だから、不利な事実が次々と認定されている。

 といっても、ロシア国内やその友好国に関しては、ウクライナ側と西側の情報がシャットアウトされていて、ロシア側の情報しか届いていない。だから、ロシア側の望んだ通りの事実認定がされている。

 かつて、クリミア半島やウクライナ東部を侵略したときは、通信インフラと放送を乗っ取って、ロシア側の情報だけが流れるようにして成果を上げた。

 しかし今回は、テスラ社長のイーロン・マスクがスターリンクの回線をウクライナ側に提供したため、ロシア軍はこういったことが出来ていない。だから、ロシア側は情報戦においても守勢に回っている。

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