子どものマスク、ワクチン接種を推奨せず… 「コロナ終結宣言」スウェーデンに学ぶ教訓

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政治家、省庁への信頼

 元々、政治家や省庁への国民の信頼が厚いのがスウェーデンである。これは、何かあっても国が面倒を見てくれるから安心という、長年の高福祉社会の賜物でもあるのかもしれないが、政治家や各省庁の専門家の国民に対する姿勢によるところも大きいと思う。WHOによるパンデミック宣言以降、首相、閣僚の臨時記者会見が数多く行われた。公衆衛生庁を軸とした関連省庁の専門家による記者会見は、第1波では、平日は毎日のように定時に開かれた。そこではデータの解説とともに、今後の見通し、対策に変更がある場合はその根拠などが丁寧に説明される。記者会見の後半は質疑応答にあて、希望する記者は毎回質問することが可能である。海外メディアがリモートで質問することもでき、その場合は英語に切り替えられる。

 各データは省庁のホームページで速やかにアップデートされ、移民向けに複数の言語や、視覚に障害のある人のために音声でも情報発信が行われている。途中から週1回に頻度が減ったが、この2年間で合計198回の定例記者会見が開かれ、22年3月3日をもって終了した。

にわか専門家が登場しないメディア

 報道するメディアも国民に信頼されている。日本では、状況に応じて立場を変えながら報道するメディアのあり方が問題となっているようだが、スウェーデンでは事情が異なる。テレビはスウェーデン公共放送と民放1社がニュース番組を持っているが、日本のワイドショー的な番組はないため、パンデミック問題はあくまでもニュースか特番で扱われる。番組に招かれる外部コメンテーターは各分野の専門家であり、にわか専門家が登場することはない。スウェーデンにも当局の対策を批判する専門家はいるため、議論を目的とする番組では、見解の異なる2名以上の専門家を招くのが通常である。新聞でも、社によって立場に多少のすみ分けはあるが、それでも賛成と反対双方の見解が掲載される。このように、異なる意見があった場合でも、できるだけ公平な報道を目指して努力するのがスウェーデンのメディアであるといえる。

国民が分断されなかった

 コロナ禍において多くの先進国が、感染の波に合わせて右往左往してきた。ロックダウンやマスク着用など、その時点で感染対策として有効だというエビデンスがなかった対策を、エビデンスのないまま各国が雪崩を打って採用していった。多くの国に疫学専門家などによる諮問機関が存在するが、あくまでも政治家の意思決定を補助する役割であり、最終的には、他に有効な対策がないという理由で、政治主導による場当たり的な決定がなされた事例が散見された。

 しかしスウェーデンでは、「感染症法」により、感染症対策は公衆衛生庁が指揮を執ることが定められており、同庁は政府から独立した立場であり、政治家の圧力を受けることがないとされている。

 新しいウイルスによる未曾有のパンデミックで、何が正解かわからない状況の中、多くの犠牲者が出たこともあり、ほとんどの国がロックダウンなどの強硬策を採ったことには致し方ない面もある。しかし、国際通貨基金(IMF)が昨年10月に発表した20年の実質GDP成長率を見ると、主要先進国はいずれもマイナス成長だったが、ロックダウンを採用した各国よりスウェーデンのほうが下げ幅は少なかった(スウェーデンのマイナス2.8%に対し、米国3.4%、独4.6%、仏8.0%、英9.8%のマイナス。日本はマイナス4.6%)。国民はある程度通常の生活が可能であったため、長期的に持続可能な対策だという実感があり、なによりこの2年間、政策がブレなかったので国民は不安をあおられることがなかった。また、政治家と専門家のコミュニケーションが密で、両者が発するメッセージに矛盾がなかったため、国民が動揺することもなかった。

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