「米国回帰」を掲げながら「従中」を続ける尹錫悦 日米韓の共同軍事訓練を拒否

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「なんちゃってQuad」はダメだぞ

 翌4月5日、朴振団長らはJ・サリバン(Jacob Sullivan)大統領補佐官(国家安全保障担当)に会ってバイデン大統領の訪韓を要請しました。しかし米韓首脳会談の具体的な時期や場所はもちろんのこと、開催するとの確約さえ得られませんでした。

 5月に東京で開催予定のQuad首脳会議に尹錫悦大統領を「ゲスト」として招待させようと、次期政権は小陰謀をこらしていました。「Quad」の準会員になることで米国に恩を売る一方、中国には「正式メンバーではない」と言い張って、その怒りを避けるというせこい手です。

 しかし米国から「Quadに参加するならちゃんと入れ」と叱られてしまった(「中国が早くも『尹錫悦叩き』、米国は『なんちゃって親米はやめよ』」参照)。

 Quadの準メンバーとして訪日するのを生かし、東京で日米韓の首脳会談も開く計画を練っていたので、これも水泡に帰しました。そこで作戦を変更し、バイデン大統領に「日本に来るついでに韓国に寄ってくれ」と頼むことになったのでしょう。

 なお、朴振団長はサリバン補佐官に対し「韓日関係の改善を通じ東北アジア、インド太平洋で韓国が寄与する役割を高めることができる」とも述べました。

 聯合ニュースの「尹当選者の親書をホワイトハウスに伝達…戦略資産展開・早期首脳会談を協議(総合)」(4月6日、韓国語版)が伝えました。

「我が国がQuadに全面的に参加できないのは日本のせいだ」との韓国のいつもの屁理屈を、ホワイトハウスでも展開したわけです。

 4月5日に代表団はオースチン国防長官とも会いました。しかし、会談内容はほとんど表に出てきません。儀礼的な会談に終わったのか、あるいは公表できないような険悪な雰囲気だったのか――。

 後者とすれば、オースチン国防長官がTHAAD基地の状況改善を求め、代表団が前向きの回答を示せなかった可能性があります。

「同盟」と「冊封」を勘違い

――中途半端な「米国回帰」で関係改善できると韓国は考えているのでしょうか?

鈴置:考えています。ここが韓国人独特の発想なのです。「同盟の格上げ」などと包装を立派にすれば米国が喜ぶと考えるのです。米国に仕えるという形さえ整えれば、米国から何らかの下賜品――戦略資産配備や首脳会談――がもらえると思い込んでいる。現実主義的な「同盟」を、名分論が支配する「冊封」と勘違いしているのです。

もちろん米国は、同盟はギヴ・アンド・テイクと考えていますから、日米韓の共同訓練を拒否したり、THAADで米国に嫌がらせをしたまま「同盟強化」を叫ぶ韓国に、目をパチクリさせているのです。

――では、保守政権になっても米韓関係は改善しない?

鈴置:それどころか、構造的には悪化する可能性が高い。これまで米政府は韓国の数々の非礼にも「左翼政権だから」と耐えてきました。その非礼が保守政権に戻っても続けば、韓国をまともな同盟国と見なさなくなります。

 米国にとって韓国の戦略的な価値は高くない。朝鮮戦争を機に自らの勢力圏に潜り込んできた国に過ぎません。「米国が韓国をいつ損切りするか」とハラハラして見る日本の専門家もいます。

 当然、中国はそれを待っています。朝鮮半島の歴代王朝は中国大陸の歴代王朝の冊封体制下にあったのに、清朝末期にその支配権を失ってしまった。「中国共産党」王朝にとって、韓国に保守政権が誕生した今こそ勢力圏を挽回する絶好の機会なのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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