「米国回帰」を掲げながら「従中」を続ける尹錫悦 日米韓の共同軍事訓練を拒否

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経済戦争にも自動介入

――尹錫悦政権は「1限」をやめるのでしょうか。

鈴置:そこがポイントです。「同盟の再建」を謳う以上、直ちに環境影響評価で合格を下し、資材の搬入を不法に邪魔する「市民」を警察力をもって排除すべきです。

 ただ、中国の圧力はすざましい。習近平主席も当選したばかりの尹錫悦氏に対し、「THAAD」という単語は使わずに「THAADの約束は守れ」と念を押しています(「中国が早くも『尹錫悦叩き』、米国は『なんちゃって親米はやめろ』」参照)。

 THAAD基地の敷地を提供しただけで韓国ロッテは中国政府から嫌がらせされ、中国全土に展開した量販店チェーンを撤収せざるを得ませんでした。

 これに関連、米海兵隊のG・ニューシャム(Grant Newsham)退役大佐が興味深いアイデアを紹介しています。「US-South Korea Ties: Focus on Economics as Much as Defense」(3月25日)です。

 米国と友好国の間に「経済の第5条(Economic Article 5)」を結ぶ構想です。「第5条」とはNATOの「加盟1カ国に対する攻撃は全加盟国への攻撃と見なす」との自動介入条項のことです。

 これを経済分野に広げ、例えば中国が韓国に経済的な攻撃を仕掛けた時、米国とその同盟国は中国に対し一斉に経済面で対抗措置をとるわけです。中国への集団的報復をちらつかせることで「同盟の最も弱い輪」である韓国の脱落を防ぐ狙いです。

――「経済戦争の第5条」はうまくいくでしょうか?

鈴置:検討すべきアイデアと思います。ウクライナ侵攻を考えれば、中国だけではなく、ロシアに対しても必要になるでしょうし。ただ、韓国がこれに応じるかは不透明です。「経済戦争の第5条」は名指しせずとも、中国を仮想敵と見なしているのは明らかです。中国との摩擦を増やす新たな材料は、韓国にとってありがた迷惑でしょう。ほとんどの韓国人に反中同盟に参加する気概はありません。

「3NO」は左派の文在寅政権が結んだ合意です。しかし保守も、安全保障の首根っこを中国に抑えられる合意というのに、全力で反対しませんでした。当時、中国によるロッテへのイジメが続いていました。ロッテ問題が悪化する責任を保守も取りたくはなかったのです。要は韓国の国民一人ひとりに「中国に立ち向かう」覚悟がないのです。

米韓で異なる発表

――「根性の無い韓国」を米国はどう取り扱うのでしょうか?

鈴置:様子見でしょう。口では「韓米同盟の再建」を唱える尹錫悦の韓国。でも、やっていることは「従中」です。就任前から「日米韓の共同訓練」は拒否した。米軍が最も改善を願う「THAAD基地」に関しても、尹錫悦政権は姿勢を明らかにしていません。

 象徴的な出来事がありました。4月3日、尹錫悦・次期政権が米国に「韓米政策協議代表団」を送りました。狙いは米韓同盟強化の証拠を貰うことでした。

 具体的には包括的戦略同盟への格上げ、緊張時の米軍の戦略的資産の朝鮮半島への展開、米韓首脳会談の開催――の3点でバイデン(Joe Biden)政権から言質を取ることを目指しました。しかし、いずれも空振りに終わりました。米政府からそれに応じる発言は引き出せなかったのです。

 外交官出身で「国民の力」の国会議員でもある朴振(パク・ジン)団長はW・シャーマン(Wendy Sherman)国務副長官と会い、1点目と2点目で合意したと述べました。聯合ニュースの「【2報】韓米政策協議団、『韓米は包括的戦略同盟格上げに共感を形成』」(4月5日、韓国語版)が報じました。

 しかし、国務省が発表した「Deputy Secretary Sherman’s Meeting with Republic of Korea President-elect Yoon Suk Yeol’s U.S.-ROK Policy Consultation Delegation」(4月4日)に、そんなくだりはありませんでした。

 シャーマン副長官の発言は「米韓同盟は平和と安全と繁栄の留め金(linchpin)」「韓国防衛への確約」といった定型文句に留まりました。米政府とすれば、依然として米中二股をかける韓国を甘やかして、付け上がらすわけにはいかなかったのでしょう。

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