〈カムカム〉最終回で読み解く藤本脚本の奥深さ なぜ丸いものが数多く登場した?

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5つの題材

 この朝ドラは3人のヒロインの愛の物語でもあった。中でも耳目を集めたのは錠一郞とるいの切ない恋だが、柳沢定一(世良公則)が錠一郞に付けてくれた「大月」という名字にも意味がある。

 月は満ち欠けを繰り返すことから、世界各地で「死と再生」の象徴と考えられている。日本の場合、それは縄文時代から(大島直行著『縄文人はなぜ死者を穴に埋めたのか』(国書刊行会)。著者は日本考古学協会元理事)。

 るいは大阪に出てきた当初、心の底から笑えず、勤務先「竹村クリーニング」の竹村平助(村田雄浩)、和子(濱田マリ)夫婦を心配させた。心が凍てついていた。

 再生させたのは錠一郎。ただし、るいばかりではない。親の愛情を知らずに育った錠一郞もるいとの出会いによって再生した。

 この朝ドラが放送前から挙げていた題材は5つ。「ラジオ英語講座」と「あんこ」「野球」「ジャズ」「時代劇」だった。この5つが安子、るい、ひなたを引き合わせるためのデバイス(装置)だったことは4月4日付本稿で書いた。

 ひなたがラジオ英語講座を聴かなかったら、勤務先の条映でハリウッド映画制作チームの通訳は任されていない。アニーこと安子との出会いもなかった。

 アニーは「あんこ」によってひなたが自分の孫であることに気づく。また「野球」と「時代劇」がなかったら、映画「サムライ・ベースボール」は制作されず、やはりアニーとひなたは会えなかった。

 そして「ジャズ」。安子とるいにとっての思い出の曲「サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」があったから、奇跡の再会が実現した。

 序盤から5つの題材を洗いざらい出しながら、その関係性を観る側に悟らせなかったのだから、藤本脚本は見事としか言いようがない。

 また、格別の役割を果たしたのは英語講座を流したラジオの存在だった。ラジオはいつも3人のヒロインの傍らにあっただけでなく、不思議な力を持っていた。

 既に他界していた平川さんをひなたの前に蘇らせたり(第97話、1994年)、アニーに自分が安子であることを告白させる場になったり。

 振り返ると、昨年11月1日放送の第1話(1925年)も日本初のラジオ局である社団法人東京放送局(現NHK)の第一声から始まった。「あーあー、聴こえますか」。ラジオが物語のカギになることを暗示していたのである。これも藤本さんらしい。

 1925年は安子の生まれた年。この朝ドラを安子、るい、ひなたの100年の物語にしたのは2025年がラジオ100周年だからでもある。

 この物語は近未来の3年後まで描く必要があった。最終回でひなたはラジオのリスナーに向かって何を話すのか。そこがポイントの1つになる。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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