ゼレンスキーの演説が人の心を動かす理由 「対比」「繰り返し」「押韻」…専門家が分析

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スピーチ術、レトリックを駆使

 彼の演説はただその地の国民の心情に寄り添うだけではない。ドイツの連邦議会でオンライン演説した際には、ロシア産の天然ガスを輸送する「ノルドストリーム2」の計画を堂々と批判。豪胆とも言える一面を見せている。

「ゼレンスキー大統領のコミュニケーションはロジックだけに頼るのではなく、人々の情緒にアピールしているところに特徴があると思います」

 そう話すのは、コミュニケーション・ストラテジストの岡本純子氏。

「スピーチには、コンテンツとデリバリーの両方がないと人の心には刺さりません。話の内容だけではなく、どのようにパフォーマンスするかも大事なのです。大統領のコミュニケーションにはどちらも備わっています。本人だけではなく、いかに人の心を捉えるかを考えてきたクリエイティブ系の人たちが関わっていると思います」

 その“言葉力”と“演出力”、共に優れており、

「『対比』『繰り返し』『韻を踏む』などのスピーチ術、レトリックを駆使していることが分かります。また、彼は自分をどう見せるかを意識し、戦略を立てています。例えばそれはヒゲにも表れています。ヒゲを剃らずにどんどん濃くなっていく姿で、戦局が悪化している切実さ、切迫感を有効に伝えています」(同)

夫人とのなれそめ

 戦略家としての一面はどのようにして育まれたのか。

「ゼレンスキー大統領については、よく元コメディアンと紹介されますが、これには語弊があります」

 と語るのは、大統領と面識がある神戸学院大学教授でウクライナ研究会会長の岡部芳彦氏である。

「正確には、400~500人の社員を束ねる芸能プロの社長で、自分の劇団の座長、メインアクター兼脚本家です。彼が作るコメディーやドラマの内容はほとんどが政治風刺で、ウクライナの社会問題や政治の汚職を面白おかしく笑いにするスタイルでした」

 ブリタニカ百科事典オンライン版によると、彼が生まれたのはウクライナ南部の工業地帯で、両親は共にユダヤ人。幼少期、一家は父親の仕事の関係でモンゴルに4年間移り住み、その後、祖国に戻ったという。同い年で同じ地域出身の妻・オレナ夫人とは高校時代に出会い、2003年に結婚。翌年に長女、13年に長男が生まれている。

 夫人とのなれそめについて、英「デイリーメール」紙はこう書いている。

〈1995年に大学に入学したウォロディミル(ゼレンスキー)は、道でオレナにばったりと出会い、彼女が持っていたビデオを貸してほしいと頼んだ。実際には彼はそのビデオをすでに8度も観ており、返却するためという口実で、電話番号を聞き出す目的でそうしたのである〉

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