ゼレンスキーの演説が人の心を動かす理由 「対比」「繰り返し」「押韻」…専門家が分析

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「亡命」という名の退路を自ら断ち、まさに死を覚悟してキエフに留まるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領。そんな状況下で発せられるメッセージに悲壮感が伴うのは当然だが、彼の言葉が胸に迫ってくる理由はそれだけではない。そこには明確な“戦略”がうかがえるのだ。

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 ゼレンスキー大統領がイギリス議会でオンライン演説を行ったのは3月8日のこと。ロシアによるウクライナ侵攻を受けてからの13日間を振り返った後、大統領はまずこう訴えかけた。

〈「生きるべきか、死ぬべきか?」。あなた方はこのシェイクスピアの言葉をよく知っていると思います。13日前は、まだこの質問がウクライナに提起される可能性がありました。しかし今は違います。返事は明らかに「生きるべき」です。明らかに、自由であるべきです〉

 固唾をのんで演説に聞き入るイギリスの議員たち。

〈そして、イギリスがすでに聞いたことがある言葉を思い出してもらいたい。この言葉は再び意味を持っています。われわれはあきらめない、負けません。最後まで戦います。われわれは、海で戦い、空で戦い、どれだけ犠牲を出そうとも、われわれの領土を守ります。われわれは、森の中で、野原で、海岸で、都市や村で、通りで、丘で戦い続けます〉

 海で、空で、森で……この部分を耳にした議員たちは、大いに心を震わせたに違いない。それは第2次大戦中の1940年、ヒトラー率いるナチス・ドイツ軍の電撃作戦で英仏連合軍が苦境に陥った際、国民を鼓舞するため当時のチャーチル首相が行った歴史的な演説になぞらえたものだったのだ。オンラインでの演説を終えたゼレンスキー大統領に対し、議員たちは神妙な面持ちでスタンディングオベーションを捧げた。

キング牧師の演説を引用

 ロシアの侵攻以降、SNSなども駆使して大統領が発してきたメッセージは単純だが、力強い。

〈私はここにいる。誰も武器をおろすつもりはない。領土を、国を、子供たちを守る〉(侵攻の2日後に公開された動画より)

 3月1日、欧州連合(EU)欧州議会の緊急会合にビデオ形式で参加してハリコフの無差別攻撃の惨状を伝えるスピーチを行った際には、同時通訳の男性が涙で声を詰まらせる場面もあったという。また、各国の議会などで演説する際には、その地の国民の琴線に触れるエピソードを挟むのが「ゼレンスキー流」のようで、アメリカの連邦議会でのオンライン演説では、

〈「私には夢がある」。このことばを、あなた方はみな知っています。きょう私が言えるのは次のことです。私には要求がある。それは、私たちの空を守ってくれること。あなた方の決意、あなた方の支援です〉

 と、キング牧師の有名な演説に触れている。ちなみにこの日の演説で「パールハーバー」(真珠湾攻撃)に言及したことに対して、日本国内で批判の声が上がっている。

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