“生放送中のピンチ”にも冷静対応の日テレ・藤井アナ 「想定外は準備できる」

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 会話の中で、瞬時に機転を利かせた発言や返答をするのは難しいもの。10年以上、「news every.」(日本テレビ)のメインキャスターとして平日の生放送をこなし、さまざまなアクシデントに対応する藤井アナも、実は「アドリブ」が大の苦手といいます。ピンチに陥った時にはどう対処しているのか、著書『伝わる仕組み―毎日の会話が変わる51のルール―』からご紹介します。

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アドリブとはいったい何か?

 私はアドリブがうまい人を尊敬します。生放送に携わる一人として、私もアドリブがうまくなりたいと研究をしてきました。その結果、ある考えがまとまりました。確かにアドリブの天才はいる、しかしアドリブは、天から突然に最高の言葉が降ってくるのではなく、瞬時の「チョイス」によって作られるものだと。

 人は年を取ると瞬発力が衰えますが、誰かのコメントに対するリアクションスピードは年を取るほど速くなってきたと感じます。これは、いろんなシチュエーションを経験してきたことで、瞬時のチョイスが増えてきたからだと思います。世の中には真のアドリブの天才がいますが、そうじゃない多くのみなさんは努力と経験によってチョイス力を鍛えてきたのではないでしょうか。お笑い芸人さんたちのアドリブは、たしかに魅力的です。しかし、若いころからいくつもの舞台を踏んで、笑いがこない冷や汗も、思いがけない爆笑も経験したからこそ、チョイスの引き出しが多くあるのだと思います。

 私が今担当しているニュース番組は3時間以上の生放送ですが、放送するものが何もない状態が一番危険です。具体的にはVTRの編集が間に合っていない場合や、手元に原稿が届いていない場合です。その場で私が話すしかないピンチはたまに訪れます。ただ、例えば外の様子を見られる情報カメラさえあれば、お天気の話をしながらでも時間をつなぐことはできますし、直前にお伝えしたニュースを繰り返すことも最終手段としてはあるでしょう。こんな対応をしたら、私以外の人は「アドリブで乗り切った」と思うでしょう。

チョイスの数だけ、アドリブは作れる

 しかし、私にとってこれはアドリブではありません。アドリブは瞬時のチョイスによって作られるとお伝えしましたが、実は、チョイスできる状況を作っておくことでアドリブのように見えるのです。そのチョイスが多い人こそ「アドリブ上手な人」なのです。数年前、手元に原稿がないまま、渋谷駅前のスクランブル交差点の映像だけで2分ほど時間をつないで乗り切ったことがありましたが、こういったピンチを多く経験した人ほどアドリブのチョイスは増えていくのです。

 自分は天才肌ではないという方は「アドリブの準備」という不思議な努力をしてみてはいかがでしょうか。取り組もうとしている対象について、ピンチのシミュレーションをしておくのです。これがアドリブの準備です。

 これはどの仕事にも活用できるやり方です。アドリブを演じる楽しみをぜひ味わってください。ちょっと努力しただけなのに、驚くほどほめてもらえます。

それでもやってくる「パニック」の瞬間に備える

 人生において想定外の事態はつきもので、それはいきなりやってきます。その想定外の時に、私たちは一瞬思考が止まり、パニックになります。

 そんなまさかに備えるために私が心に留めているのが「ブックエンド理論」です。

 ブックエンドとは本が倒れないよう両側から支える仕切り板のようなものですが、その内側であれば、大抵のことには対応ができるという考え方です。考えられる最悪の状況を先に想定しておいて、その内側で対応策を考えておくのです。このブックエンドを、それぞれのシチュエーションで設定しておくとさまざまなことに対応できます。

アクシデントを逆算し、心の中に「ブックエンド」を置く

 実は、今私が出演しているニュース番組のスタジオには、緊急時のコメントを書き出した資料が置かれています。画面の端っこをよくご覧いただくと、私の手の届く距離に透明のクリアケースが置かれているのが分かります。そこには緊急地震速報や大雨特別警報、そして噴火速報にも対応できるコメント資料が入っています。

 私は番組が始まる前に、このコメントを小声で発音しておいて、頭の中にブックエンドを置いています。緊急事態が起きたらこう対応しよう、と「アクシデントの逆算」から設定したブックエンドです。ここさえ押さえておけば、たいていのことには対応できるという安心感が生まれます。

 このコメントは、緊急事態が起きてから数分後までしか対応できないのですが、緊急事態のパニックから自分を救い出すには十分な時間を生み出せます。

 また海外との生中継では、回線が落ちてしまうアクシデントが時々あるのですが、「もし落ちたらこうしよう」というブックエンドを置いておくだけで、実際にアクシデントが起きた時の対応スピードが全く違います。さらっとアクシデントをフォローできれば、スタッフからの信頼も生まれますし、実力向上にもつながります。事前にブックエンドを設定しておくこと、これが想定外の事態にも対応できる仕組みです。

 このブックエンドの設定が上手な人ほど、人生を楽しめます。心に余裕が生まれるからです。アクシデントの逆算は、想定外を想定内にする最高の準備なのです。

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※『伝わる仕組み―毎日の会話が変わる51のルール―』の本文を一部抜粋・再編集したものです。

藤井貴彦(ふじいたかひこ)
1971年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。1994年日本テレビ入社。スポーツ実況アナウンサーとして、サッカー日本代表戦、高校サッカー選手権決勝、クラブワールドカップ決勝など、数々の試合を実況。2010年4月からは夕方の報道番組「news every.」のメインキャスターを務め、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などの際には、自ら現地に入って被災地の現状を伝えてきた。新型コロナウイルス報道では、視聴者に寄り添った呼びかけを続けて注目された。

デイリー新潮編集部

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